菊の意匠【前編】
「うちは屋号が『菊乃井』なので、年中、菊の意匠を使っているのですが…」と村田知晴さん。実のところ、菊のうつわは季節を問うのか? 問わないのか? 気になっていたそうです。9月9日に「菊の節句」とも呼ばれる重陽の節句があり、9・10月はどこの日本料理店でも菊の意匠を用います。この時季にふさわしいテーマとして、今回は菊の紋様について様々なお話を『梶 古美術』の梶 高明さん・燦太(さんた)さんに伺いました。
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答える人:梶 高明さん
『梶 古美術』七代目当主。その見識と目利きを頼りに、京都をはじめ全国の料理人が訪ねてくるという。朝日カルチャーセンターでは骨董講座の講師も担当。現在、「社団法人 茶道裏千家淡交会」講師、「NPO法人 日本料理アカデミー」正会員,「京都料理芽生会」賛助会員。
梶 古美術●京都市東山区新門前通東大路通西入ル梅本町260
kajiantiques.com/
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質問する人:村田 知晴さん
1981年、群馬県生まれ。『株式会社 菊の井』専務取締役を務めながら、京都の名料亭『菊乃井』四代目として料理修業中。35歳で厨房に入る。「京都料理芽生会」「NPO法人 日本料理アカデミー」所属。龍谷大学大学院農学研究科博士後期課程に在籍し、食農科学を専攻している。
菊乃井本店●京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル下河原町459
kikunoi.jp/
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共に学ぶ人:梶 燦太さん
1993年、梶さんの次男として京都に生まれる。立命館アジア太平洋大学国際経営学部を卒業後、『梶 古美術』に入り、八代目となるべく勉強中。
Q1:菊の意匠が多用されるワケは?
- 梶 燦太(以下:燦太)
- 菊の紋様はうつわや道具だけでなく、様々なところで用いられています。知晴さん、まず何が思い浮かびますか?
- 村田知晴(以下:村田)
- 菊の御紋といえば、皇室の紋章。パスポートにもありますね。
- 梶 高明(以下:梶)
- 皇室の紋章に使われるようになった起源は、後鳥羽(ごとば)上皇にあると言われています。ですが、政治的な意味合いはさておき、まずは中国で菊は薬草として用いられていたという理解をしておきましょう。
菊は奈良時代に日本に伝わったと考えられています。そして、平安時代に宮中で「重陽の節句」の原型とも言われる菊花の宴が催されるようになり、菊は長寿の象徴となりました。
そうした背景から、お茶の世界でも「菊の意匠は年中使ってもいい」とよく言われています。ですが、誰がそのように定めたのかは曖昧なまま伝わっています。
- 村田:
- 実はそこがすごく気になっていて…。うちは『菊乃井』なので、大将(村田吉弘さん)から「菊の意匠のうつわや道具は年中使っていいことにしている」と聞いてはいたのですが、屋号とは関係なく、年中使えると考えて良さそうですね。
- 燦太:
- 菊の意匠はうつわや茶道具以外にも掛け軸や屏風など、たくさん用いられていますよね。うつわにしても、漆器に陶磁器。花だけではなく、葉も意匠として用います。
例えば、この永楽のうつわがそうですね。
左から、十四代永楽・妙全(みょうぜん)造 紫交趾(こうち)菊葉向付、十六代永楽・即全造 黄交趾菊花向付。
紫交趾向付は、永楽家にとってとても重要な作品。18世紀に紀州藩主・徳川治寶(はるとみ)候の茶会で九代・了全作の紫釉の向付を用いた記録があり、これが永楽家で最も古い交趾だと考えられている。やがて新しい技術が取り入れられ、菊花向付のように色の異なる釉薬を用いるようになった。
大岡春卜(しゅんぼく)筆 菊尽し中屏風一双。
大岡 春卜は江戸時代中期に大坂で活躍した狩野(かのう)派の絵師。「この屏風は単に菊を愛でる目的だけでなく、菊の種類や生(い)け方を教えるために描かれていると考えられます。菊は古くから縁起の良い、愛される存在でした」と梶さん。
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