『浜作』-板前割烹 基本の流儀-

【料理編】「海老芋の炊いたん」

京都『浜作』冬の名物「海老芋の炊いたん」は、常連客が心待ちにする風物詩であり、初めて食べたお客は必ず瞠目する逸品です。繊細な口解けや鼻に抜ける上品な香り、儚く消え、スッと胃の中に納まる食べ心地。「他所と違う」と思わず唸る味わいは、三代目・森川裕之さんが海老芋の皮むきや下茹で、そして焚き方に至るまで、すべての工程を徹底して磨き上げ、美味しさを追求した証。その一つ一つに込められた意図と工夫を語っていただきました。


森川裕之さん:京都『浜作』三代目主人。1962年、京都・祇園町生まれ。初代・森川 栄が創業した日本初の板前割烹を1991年に継ぎ、一期一会の精神で日々板場に立つ。お客には川端康成や谷崎潤一郎といった文豪、英国のチャールズ皇太子やチャールズ・チャップリンなど、三代にわたって国内外の貴紳に愛されてきた。通常営業のほか、受講生が延べ4万人を超える「浜作料理教室」も主催。「現代の名工(平成29年度 厚生労働省 卓越技能者)」として表彰される。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」などのテレビ出演多数、著書も「愛蔵版 和食の教科書 ぎをん献立帖」(世界文化社)など、多数執筆している。

文:阪口 香 / 撮影:Rina

目次


冬の京野菜の主役、海老芋

例年以上に長く続いた夏が幕を下ろし、短い秋を経て12月に入る頃。朝夕の冷え込みは厳しさを増し、冬の気配がぐっと色濃くなります。そんな季節の移り替わりに呼応するように旬味を迎えるのが、冬を代表する京野菜の海老芋とかぶらであります。今回は海老芋を使った、シンプルな焚きものをご紹介します。

そもそも海老芋とは里芋の一種で、その縞模様と湾曲した姿がエビを想起させることから、名が付けられたと言われています。『浜作』が用いるのは、ずっしり重みを感じ、丸みを帯びたもの。錦市場の『四寅』から仕入れるものは堂々たる風格を湛え、冬の佳味を象徴するにふさわしい食材です。

調理法は非常にシンプル、明快です。海老芋の皮をむき、湯がいて柔らかくし、だしで煮含める、以上。とはいえ、それぞれの工程にはしっかりとした意味合いがあり、その理を正しく弁え、幾度も調理して勘所を身に刻まなければ、海老芋の真価を余すことなく引き出すことはできません。ぜひ何度も挑戦され、その感覚を掴んでいただきたいと存じます。

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