和食を科学する料・理・理・科

真薯(しんじょ)の食感はコントロールできる!? vol.1

魚介のすり身を使った椀種の定番、真薯。魚介によって、プリプリ、ふわふわなど、理想とする食感は変わります。初夏から夏の椀種といえば、鱧。今回は、大阪・東天満の『懐石料理 雲鶴(うんかく)』店主・島村雅晴さんが、農学博士・川崎寛也さんと鱧真薯の理想の食感を模索します。すり鉢を使うか、フードプロセッサーだけですり身を作るか。塩を加えるタイミングは先か、後か。この2つの基礎実験で、弾力がどう変わるのかを実験。さらに、「端身などを冷凍保存し、真薯に活用したい」という島村さんのリクエストで、ドリップの出にくい魚介の保存法も検証しました。

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン
島村雅晴さん(大阪・東天満『懐石料理 雲鶴』店主)

1977年生まれ、和歌山県出身。北新地『北瑞苑』で9年修業し、2005年に28歳で独立。7年後、東天満に移転。古文書などを読み、日本の古き佳き文化を独学する一方で、科学的アプローチも取り入れる、柔軟で探求心旺盛なお人柄。培養肉の研究開発ベンチャー「ダイバースファーム」、養殖を支援し、海里の環境保全に努める「RelationFish」などの会社も共同経営。http://www.unkaku.jp/

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。

真薯のメカニズムとは

島村雅晴(以下:島村)
6・7月は鱧のシーズンですので、真薯にしてお椀を仕立てようと思っています。それで、フードプロセッサーだけで作ったすり身と、最後にすり鉢で当たったすり身の真薯を作って比べてみたのですが、かなり食感が違ったので…。真薯地のメカニズムに興味が湧きました。
川崎寛也(以下:川崎)
魚肉をすり身にして加熱すると、何が起こるか? 簡単に説明しますね。
魚肉に塩を加えてフードプロセッサーなどで剪断(せんだん)すると、筋線維(筋細胞)の中のアクチンとミオシンというたんぱく質が溶かし出されます。これが結合して、ひも状のアクトミオシンになります。アクトミオシン同士が絡まりあっていくことで、筋線維のたんぱく質は網目状構造になります。
この状態で加熱すると、網目状構造にたんぱく質が凝固し、水が封じ込められますこれをゲル化と言います
島村:
ゲル化とは、どろっとした液体が固体になる、みたいなことですよね?
川崎:
そうです。具体的に言うと、ゲル化は、液体中に分散している個体が編目構造を形成し、その立体構造に液体を含む状態になり、流動性を失うこと。
その逆で、個体が液体中に分散していて、流動性がある状態はゾルと言います。
ゲル化したすり身を加熱すると、ブリンッとした弾力になるんですね。
島村:
すり鉢ですり身を作った方がより弾力は出ますよね? それは、なぜでしょうか?
川崎:
おそらく、すり身の粘度や細かさ、つまりゾル状態の違いだと思うのですが…。改めて実験してみませんか?
すり鉢と、フードプロセッサーですり身を作り、真薯にして食べ比べると分かりやすいのですが…。
島村:
すり鉢で一から作ると大変なので…(笑)、途中までフードプロセッサーを使ってもいいですか?
川崎:
では、フードプロセッサー→すり鉢、フードプロセッサーのみで、食べ比べてみましょう。
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