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【レシピ付き】奈良『白』による、日本最古の柑橘・大和橘の料理 Vol.2飛鳥橘醍醐鍋編

黄色く熟し、食べ頃を迎えた大和橘(やまとたちばな)。鮮烈な香り、きれいな酸味や苦味に、注目する料理人が増えています。なかでも奈良の日本料理店『白(つくも)』の店主・西原理人(まさと)さんは先駆者的存在。Vol.1では、正月に定番で提供する主菓子・宝来餅のレシピを公開。今回は、実を丸々使った飛鳥橘醍醐(だいご)鍋のレシピを紹介します。実の味を引き出す下処理に加え、前代未聞(⁉)な、味変化は必見です。

文:阪口 香 / 撮影:Rina

5変化で楽しませる「飛鳥橘醍醐鍋」

前回に引き続き、大和橘を使った料理をご紹介。2品目は、日本最古の鍋と言われる「飛鳥鍋」をアレンジしたもの。西原さんの深い知識に、発想力が兼ね備わった一品だ。

飛鳥鍋とは、牛乳を加えただしで鶏肉や野菜を煮た奈良・明日香村の郷土料理。
飛鳥時代に唐から来た渡来人の僧侶が寒さをしのぐためにヤギの乳で鶏肉を炊いて食べたのが始まりとされ、昭和初期に明日香村の産品である牛乳を使った名物として確立したと伝わっている。

「平城京と明日香村の橘寺を結ぶ中ツ道はかつてより『橘街道』と言われ、現在、大和橘の植樹をし、並木道にする計画が進んでいます。大和橘と明日香村との縁は深いので、飛鳥鍋と時代を越えて結び付けたいと思いました」。

さらに、「橘寺は仏教に通じた聖徳太子誕生の地と言われています。小高い丘に建立された橘寺から見た景色は、三輪山を中央に、龍王山と巻向山(まきむくやま)が両翼となり、飛ぶ鳥に見えたという記述も残っています。そんな太古のロマンを感じていただけたらと思って」供し方にある仕掛けを施した。

その仕掛けとは、「大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)」における「五味相生の譬(ごみそうしょうのたとえ)」をキーワードに、味を5回変化させるというもの。
経文には「牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生蘇(しょうそ)を出し、生蘇より熟蘇(じゅくそ)を出し、熟蘇より醍醐を出す、醍醐は最上なり」とあり、乳を精製する過程の五段階「五味」は、乳、酪、生蘇、熟蘇、醍醐の順に上質で美味なものとなることを表している。この最後にして最上のものを意味する“醍醐”は、“醍醐味”の語源でもあるという。

5段階の味変は、以下の通り。

飛鳥橘醍醐鍋①大和橘の香りを移した上湯(シャンタン=地鶏一番だし)ベースのだしで大和肉鶏の鶏つくねや野菜を炊き、橘の香りと共に水炊き風で食す(左上)。
②聖徳太子もかつて食されていたと伝わる蘇(乳を煮詰めて乾燥させたもの)を削り、まろやかで繊細な乳の甘みを纏わせて食す(右上、左下の手前が蘇)。
③白湯(パイタン=濃厚地鶏二番だし)ベースのだしと明日香村『西井牧場』の「飛鳥の美留久(みるく)」を混合し、水炊き風の鍋に注いで飛鳥鍋が完成する(右下)。
④橘葉胡椒を薬味とし、パンチのある辛味とほろ苦さで飛鳥鍋にアクセント加える。
⑤飛鳥鍋の起源とされるヤギの乳。そのヤギの乳から作られた醍醐(左下奥のヤギのチーズ)を添えて。

重ねるほどに味わいは深みを増し、さらに、奈良の歴史と文化を身体に刻んだような心地に。その調理には、西原さんの深い哲学を見ることができる。

大和肉鶏は、丸々一羽使う

「鶏肉は、『雅 chick farm(ミヤビ チックファーム)』の中家(なかいえ)雅人さんが育てた大和肉鶏。キレイな旨みと味わい深さが特長です。当然ですが、生産者にとっては部位ごとでなく、一羽で購入した方が有難い。この鍋では、一羽余すことなく使い切ることをテーマにしています」。

とは言え、あくまでも日本料理。内臓はどうするのかと問えば、「サイの目に切り、ミンチ肉の中に包むことで、だしにアクや雑味を出さないようにします」。口に含めば混然一体となり、味に深みが増す。

鶏ガラはカツオ昆布だしに加えて蒸し煮にし、上湯ベースのだしに。その半量を取り出し、手羽先・手羽元・モミジ・筋などを加えてじっくりと煮出し、濃厚な白湯ベースのだしをとって牛乳と合わせる。「上湯の繊細なだしに直接牛乳を加えると味が分離し、牛乳が立ち過ぎるので白湯ベースにして合わせます」。骨、内臓、身と、すべて無駄なく、最適に使って完成する鍋なのだ。

色味は最小限に留め、大和橘を主役に

「色と味わいは、ある程度繋がるものがあります。ニンジンの赤や椎茸の茶色など、色味が濃いものは味も個性的。今回の鍋の主役は大和橘なので、視覚的にも、味覚的にも際立たせるために、合わせる材料は白っぽいものを揃えています。すると自然と優しい調和を生みます」。

飛鳥橘醍醐鍋の材料合わせる食材は、大根・蕪・大和太ネギ・白舞茸・エノキ茸・海老芋・京都『麩嘉(ふうか)』の胡麻麩・湯葉・鶏つくね。

鍋に入れる大和橘は、味をしっかりだしに移すために金串で全体に穴を開けてマグロ昆布だしに浸けて香りを閉じ込める様に蒸しておく。味変にはだしの味とかぶらないよう、大和橘の果皮ではなく、葉で作った葉胡椒を使うなど、細部まで心を砕いている。

橘葉胡椒橘葉胡椒は、初夏採りの葉を使う。鮮烈で山椒っぽい香り、ほろ苦さがある。

「飛鳥橘醍醐鍋」レシピ

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