ウィズコロナの食

住宅街に笑顔を運ぶ、老舗焼肉店『白雲台』のキッチンカー

「お客様がお店に来られない」という未曾有の状況下で、取り寄せ商品開発やデリバリーなど、さまざまな対応が考えられている中、キッチンカーという選択肢に興味を持っている飲食店関係者も多いのではないでしょうか。
ノウハウはもちろんですが、ビジネス街のみならず住宅地への出店には、モビリティビジネスのプラットフォームとなる事業者や自治体との協力も不可欠です。
2020年5月からキッチンカーを運営する老舗焼肉店『白雲台(はくうんだい)』の代表取締役・呉 龍一(オ ヨンイル)さん、豊中市、「SHOP STOP」を運営する『株式会社Mellow(メロウ)』にキッチンカーの役割、今後の展望を聞きました。

文:団田芳子 / 撮影:東谷幸一

キッチンカーは“動く宣伝カー”

焼肉の本場・鶴橋にて、昭和50年に創業した『白雲台』のキッチンカーが、豊中市の樫ノ木公園にやってきた。緑の公園に焼肉のかぐわしい匂いが流れると、誘われるように親子連れが早速2組。
『白雲台』は、グランフロント大阪や伊丹空港にも大型店舗を構えるが、このご時世だ。「お客様が来られないなら行くしかない」と代表取締役・呉 龍一さんは、2020年5月よりキッチンカーを導入した。

wit0007繧ュ繝・メ繝ウ繧ォ繝シ逕サ蜒十IMG_5266牛骨を20時間炊いて作る秘伝のもみダレに肉を漬けて、注文後に焼き、アツアツで供する。ご飯には、国産和牛に合うあっさり味のつけダレを回しかけて。

車の中に鉄板を設置し、注文ごとにその場で焼く焼肉弁当が目玉。「肉質を下げると店の評判を落とすことになる。これは動く宣伝カー」と、秘伝のタレや自家製キムチも店で出すものを使い、「さすが老舗の味」と大好評だ。
インスタグラムで出店場所をチェックし、予約して訪れるファンもいるほどで、今春には2号車も登場した。

 
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一番人気の黒毛ハラミ弁当900円。焼きたて熱々の肉はたんまり100g。鳥取の無農薬米を使ったご飯が美味しいと評判。自家製キムチ、モヤシナムル入り。肉増しプラス100円。ご飯大盛り無料。パッケージのホルスタイン柄は若いスタッフのセレクト。

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マーラーうどん700円。山椒のシビレ感を利かせたまったり甘辛味。ネギ、玉ネギ、バラ肉もたっぷりでボリューム感もあり。ほかに、プルコギ弁当750円、国産牛カルビ弁当900円も。メニューは増やしたいけど、ひとりで対応できる限界もある。

順風満帆に見える『白雲台』のキッチンカー事業だが、「当初半年ばかりは赤字でした」と呉社長は振り返る。
「車1台250万円くらいで始められます。実店舗の10分の1以下ですので、格安でできるとイージーに考えていたんですが…。仕込みの工場、駐車場を自社で持っていたので何とか続けられましたが、1日5~6万円の売上げが必要で、そこをクリアするのは簡単ではありませんでした」。
天候や出店する場所によって明暗はくっきり出る。雨の日の売上げは半減するし、10時間営業して1万円にも満たない日もある。高速料金、人件費を考えれば当然赤字だ。
「いい場所かどうかは、やってみないと分からない。場所は早い者勝ちで押さえていくので、1度やって、いい場所だと思うところは、次の予約をとにかく早く入れます」。

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「彼の笑顔が今日の売上げの鍵です!」とスタッフに発破をかける呉社長(写真左)。

とはいえ、様々な条件よりも、売上げを左右するのは、担当スタッフのモチベーションだとか。「担当スタッフにヤル気があると、目に見えて売上げが上がります」。
では、“ヤル気”をお客様に伝える方法は? 「アイコンタクトや笑顔が大事なんです。そんなノウハウは、『Mellow』さんからアドバイスをもらいました」と呉社長。

災害支援も視野に入れた、行政との連携

『白雲台』は、『株式会社Mellow』が展開する、日本最大級のモビリティビジネスのプラットフォーム「SHOP STOP」に参画している。
『株式会社Mellow』では、行政と連携し、キッチンカーを活用したウィズコロナ時代の新しい生活サービスの検証を目的とする取り組みも盛んに行っており、取材日の樫ノ木公園出店も、豊中市との連携で実現したものだ。

豊中市では、2020年8月より、市内の公園や団地で定期的にキッチンカー実証実験を実施。テレワーク中の就労者、子育て世帯、外出が困難な高齢者など、幅広い世代に喜ばれたとして、キッチンカーがもたらす賑わいが、市の魅力の一つになっていくと期待している。
オフィス街やイベントでの出店が多いイメージのキッチンカーだが、オフィスへの通勤や各種イベントがなくなるなど、キッチンカー事業を取り巻く環境は大きく変わる。行政と連携した宅地への出店は、新しい事業の可能性を示唆しているようだ。

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「この樫ノ木公園は自動販売機もないし、喫茶店もない。天気さえ良ければ良い立地です。何より、緑が多くて気持ちいい場所ですよね!」と呉社長。

『株式会社Mellow』では、こういった行政関係者とのチャンネルを生かし、被災地への炊き出しなど、モビリティによる災害支援を目的とするフードトラック事業者団体「一般社団法人フードトラック駆けつけ隊」も開設。
「食の力で困っている人の力になりたい」という飲食事業者の想いを支援に繋げられるよう今後も活動予定だとか。

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「一般社団法人フードトラック駆けつけ隊」の支援スキーム。これまでフードトラック事業者による災害支援の意思があっても、支援エリアでの営業許可や車両の通行許可が得られず断念せざるを得なかった課題などをクリアする試みだ。

最後に、呉社長に今後のキッチンカーの展望を伺った。
「生協みたいに色んなものをキッチンカーで売るのもいいですね。夜は赤提灯的に焼肉をアテに一杯飲んでもらったり…。全国を旅しながらキッチンカーで回ったら面白いやろなぁ。やりたいなぁ」と夢は広がるばかりのよう。

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