ウィズコロナの食

水割りより前の大切な仕事。『ローゲンジッツ』の香るスプレー

店に入る前に除菌スプレーをシュッとひと吹き。このコロナ禍ですっかり慣習化したエチケットだが、そのワンプッシュから着想を得て、神戸・三宮の『ローゲンジッツ』店主・難波宏行さんはこのほど、香る除菌スプレーを開発。手荒れしない優しさに加え、バーテンダーらしく香りにこだわったその商品は、水割りやカクテルを一層引き立てるアイテムとしても欠かせない存在に。その誕生ストーリーとは。

文:剱持裕典 / 撮影:下村亮人

神戸・三宮の繁華な駅前通りから1本入った路地に佇む雑居ビル。その外階段から地下へ。店前に降り立つと、蚊取り線香の残り香がほのかに漂う。「換気のため店のトビラは開けたままなので」と、出迎えてくれたのは『ローゲンジッツ』店主・難波宏行さん。

間接照明のシックな店内は柑橘系のオリエンタルな芳香で満ちる。カウンターに案内されると、慣れた手つきで、おしぼりがすっと手元に。さらにそこに、そっと添わせるように差し出されたそのスプレーこそが、店内に満ちた香りの正体だ。「ワンプッシュの定着。その積み重ねで室内にもこの香りがだいぶ染みついてきましたね」。

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wit0005サ蜒十_R5_7149まずはさっとおしぼりと除菌スプレー「CAOLI LA(カオリラ)」を提供する難波さん。手に吹き付けた際のミスト感をはじめ、潤いや香りなど快適なつけ心地と除菌精度の両立を図り、そのバランスに細心の注意を払い完成させた。

香りと使い心地にこだわったそのスプレー「CAOLI LA(カオリラ)」はバーのオリジナルで、この1年半ですっかり、カクテルや水割りを楽しむ前に欠かせないアイテムに。手に吹きかけた瞬間、フワッと華やぐ香りに自然と笑みがこぼれる。
「お客様がそういう表情をされるたび、コレ作ってよかったって実感します。何度もね。大変でしたし、費用も結構かかってしまいましたが」。
その製作にあたっては、ただ専門業者に丸投げ委託したものではない。
すべては店に集う客と客とがつながり、実現した自作除菌スプレーの商品化プロジェクト。

それはとある常連客のひと言から始まった。

世界の都市がひとつ、またひとつと未知なるウイルスに蝕(むしば)まれ始めた2020年春、国内もまた深刻なコロナ禍へ。そんな折、マスク着用に続き慣習化しつつあったのが店頭に設置された除菌スプレーだった。
「当時も今もですが大半は、機能性を重視したものばかり。消毒性が高い分、手荒れがひどくて」。それまで店ではおしぼりにオリジナルのアロマを含ませて提供していたが、試しにそのアロマをアルコールと共にスプレーボトルに封入したところ手荒れせず、客からも好評だった。以来、市販のスプレーボトルに手製のラベルを貼り、おしぼりに添えたが、そのボトルに常連客が反応した。「これ商品化してみたら」と。

7083左/業者から戻ってきた洗濯済のおしぼりは、一晩水につけて塩素を抜き、1枚1枚硬く絞り、「カオリラ」をスプレーするのが営業前の日課。右/もともとおしぼりに吹き付けていたアロマをアルコールと混ぜた「カオリラ」誕生のベースになった試作品。

1度目の非常事態宣言が解除された2020年6月。営業再開を機に、その自作除菌スプレー商品化プロジェクトはスタートした。スプレーも、噴霧口やボトル形状の違いで噴射強度やミスト感が全く異なること。さらには、液体は無菌状態で充填しなければならないこと。除菌効果の得られるアルコールの配合比率は? ということも含め、今まで知らなかったことを一つ一つクリアしなければならなかった。
しかし、「ありがたいことに、ボトルに精通する方、医療関係の方々、必要な知識を有する人は皆お客様の中にいらっしゃって。そういう方々に本当に助けていただきながら完成まで漕(こ)ぎつけることができました」。第3波の猛威が訪れようとしていた12月、2種類の香りのスプレーを誕生させた。

wit0005サ蜒十_R5_7085「カオリラ」はユーカリとミントを配合した清涼タイプと、『ローゲンジッツ』店内サービスでも提供するベルガモットとグレープフルーツの柑橘系の2種。各50㎖1600円、2本セット3000円。詰め替え用500㎖11000円も好評発売中。

このコロナ禍ですっかり習慣になった、おしぼりと「カオリラ」を提供するという“最初のひと仕事”を終えた難波さんは、いよいよ本番に取り掛かる。氷の入ったミキシンググラスにアイラウイスキー「カリラ12年」、水を静かに注ぎ、バースプーンで幾重にも無音の弧を描く。糸を引くような細さで注がれた琥珀色の液体はグラスの底で濃さを増し、その穏やかな表層をゆるやかに波打たせながら上っていく。

差し出されたグラスを手にすれば、角の立たないどこまでも丸い味わい。古樽の木片を刻んだような「カリラ12年」の独特なフレーバーと共に、先ほど手にシュッと施したベルガモット、グレープフルーツのフレッシュな香りが絶妙に溶け合う。「香りのマリアージュを意識した」というその除菌スプレーこそ、長年看板に据えた「カリラ12年」に対するオマージュでもある。

「たくさんの方々のご協力を通じ、実現できたことだと思いますし、本当に感謝しています。今のこんな状況下ですが、せめて一時でも、香りでリラックス。シュッとリフレッシュしていただけたら。これからも自分自身できることを取り組んでいけたらと思っています」。

wit0005サ蜒十_R5_7079「CAOLI LA」というその名は、店の看板「CAOL ILA12」のスペルのスペースを1文字分ずらしたパロディ。バーテンダーらしいセンスと遊び心が秀逸。

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