ウィズコロナの食

左党のファンも獲得!『アルテシンポジオ』のティーペアリング

時短営業で売上げが減少し、協力金の支給も遅延。そこへとどめのように酒類提供の禁止要請。売上げダウンのみならず、飲食店が提供し得る料理と飲み物とのマッチングという大いなる“楽しみ”まで奪われてしまう——。いや、数年前から話題になっていて、気になっていたティーペアリングがあるじゃないか! 『アルテシンポジオ』のオーナーシェフ、荻堂桂輔さんの行動は迅速だった。2度目の緊急事態措置が発令された4月25日、すぐさまオンメニュー。すると…、シェフにとっては嬉しい誤算か、“意外な効果”が次々と得られたという。

文:団田芳子 / 撮影:塩崎 聰

夙川で18年目を迎える人気イタリアン『アルテシンポジオ』では、「酒類を扱えなくてもペアリングは不滅です!」と、4月25日にSNSで告知。ティーペアリングを6種1100円、3種550円というお試し価格でスタートした。

このお知らせを目にした時、筆者は、「安い!」とは思ったが、正直に告白すれば、自他共に認める左党としては、あの旨いイタリアンをお茶で食すなんて、そそられないなと思った。ところが、実際に5500円のランチコースを6種のお茶と共に体感した後には180度転換。その満足度の高さに驚嘆させられたのだ。

その折りの詳細をご紹介しよう。
まず、スターターは、ロゼシャンパンに見紛う美しいピンク色。「ローズヒップにハイビスカスを少量ブレンドしました。酸があるので、相性のいい炭酸で割っております。食前酒のイメージで」と、ソムリエの井原裕規(ひろき)さんが、さながらワインを紹介するように丁寧に説明。飲んでみればさっぱりと爽やかで、すこぶる美味しい。一気にテンションが上がった。

お次は、凍頂烏龍茶の水出し。「いつも水出しはガブガブ飲むイメージで淹れていましたが、それでは料理に合わせると頼りないので、分量を変えて何度も試飲しました」と荻堂さん。なるほど、リーデルのグラスで供されると、ワインのように少量ずつ口に含むように飲みたくなる。そうすると濃い目の烏龍茶の青い香りが鮮烈になる。その香りは青海苔を連想させ、1皿目の「ホッキ貝の新玉ネギソースとアスパラガスのサラダ」にもよく合う。

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続く前菜は「白子のセージの香草パン粉焼き」。サワラの白子は酒なしでは無理があると思ったが、台湾の文山包種の渋みが見事にマッチ。ソースにミントを使って清涼感を出し、パン粉にセージを加えるなど、お茶に合わせて料理もアレンジ。まるでブルゴーニュの白を合わせているようなハマり方に。

パスタには、免疫力を高めるというエキナセアのハーブティーを。エキゾチックでスパイシーな香りと、ちょっとした濁りがオレンジワインを彷彿とさせる。

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メインは鴨ロースのロースト。鴨の血の味はどうしても赤ワインが欠かせないと思うが。「確かに、血の味やバター、強い塩味も赤ワインが欲しくなります。だから、心持ち塩味を控え、バターは使わず、鴨の脂や血の旨みはレモンバーベラなどハーブで抑えるよう料理を工夫しました」と荻堂さん。そのために、赤肉メロンやブロッコリーのピュレのソースに、野生のルッコラを散らし、皿の上は鴨ロースをメインにしつつ爽やかな印象に仕立てた。
お茶は2杯用意。赤いのは湯で抽出したハニーブッシュ。ハチミツのような香りが肉に合う。黄色はタンポポ茶。ジンジャー、エルダーフラワー、シナモンを加えて鴨肉に寄り添わせた。

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6杯のお茶は、それぞれ個性的な味わいで、飲み飽きすることもなく、むしろ次はどんな香り、味わいだろうとワクワクさせられた。
ティーペアリングは数年前から話題になり、この事態の中で新たに挑戦を始めた飲食店も少なくないが、市販のものを幾つか用意しているだけでは、ここまでの満足感を与えることはできない。家で飲めるお茶とは違うと感じさせるオリジナリティが大きな魅力になる。そして、やはり一品ごとの料理とのマリアージュを追求しているからこその説得力。何より、自らも大の酒好きの荻堂シェフ自身が楽しんでいるのが伝わってくるのがいい。

「今、庭のハーブやハッサクの皮を乾燥させています。いずれ高級な岩茶も使いたい。面白いものを見つけたらどんどん試していきたいです」と大きな瞳をキラキラさせていた荻堂シェフ。そもそも自宅の庭のハーブも、「ずっとやりたくて出来なかったけど、コロナ禍で時間ができたから」と花壇を作り、昨年から育て始めていたもの。「今では40種ほどに増えました」と嬉しそう。取材後も、SNSに毎日のように新しいハーブを紹介し続けている。先日は、少し甘みのあるプロセッコに似せて、自家製梅ソーダと酸味の強いイチゴを使ったイチゴソーダを新開発。「イメージはコルヴィーナのスプマンテ。かなり再現できてると思います」と言われると飲んでみたくなる。今後は、温かいお茶の提供の仕方も探りたいと意欲的だ。

IMG_8564荻堂シェフ(右)とソムリエの井原さん。

「やってみると、いろいろ発見がありました。ハーブティーに合わせようと、料理に、よりハーブを使うようになって、脇役だったハーブもパーセンテージを上げてみるとこんなに面白いことになるんやと発見できたし。意外だったのは、もともとアルコールを飲まない人は、そもそもペアリングという感覚を持っていないせいか、食いつきは良くないという事実。むしろ、ワインペアリングの体験を持つワイン好きな方が試してみたいと来られます」。
「まだ自信がないし、データを集めたいので」と破格の安さで始めたが、そろそろ自信をもって本格的にと、6種3300円、4種2200円に変更。
それでも、レストランの楽しみを目一杯堪能させるこのペアリングなら、十分喜ばれるに違いない。

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