料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.11 主要黒ブドウ品種の特徴 その2
ソムリエの松岡正浩さんから学ぶ「料理人のためのソムリエ試験対策」第11回目。前回に引き続き、主要黒ブドウ品種の特徴をお教えいただきます。イタリアのサンジョヴェーゼ、ネッビオーロ、そしてスペインのテンプラニーリョ、他、ガメイとマスカット・ベーリー Aについてです。ポイントをしっかり押さえるようにしましょう。
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松岡正浩(「合同会社 まじめ2」代表 / 大阪・北新地『空心 伽藍堂』シェフソムリエ)
兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『空心 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。
前回に引き続き、主要黒ブドウ品種の特徴についてお伝えします。「イタリアらしさ」がわかるようになれば二次試験突破は間違いありません。
サンジョヴェーゼ
私のサンジョヴェーゼのイメージは、酸を明確に感じるやや田舎っぽいボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨンです。ただ、イタリア最大の収穫量を誇ることもあり、スタイルの幅は広く、多種多様なタイプが造られています。テイスティングする場合は、トスカーナ地方のサンジョヴェーゼ(キャンティ・クラシコ等)を選択しましょう。
外観
赤黒いイメージで、「濃い系」品種に分類されます。イタリアワイン特有の少しくすんだ印象、エッジに赤みが見えることもあります。ただ、カベルネやシラーほどの濃さではないので、ソムリエ試験的には「あれ?濃い系とは言い切れないかも…」と違和感を感じられるようになることがイタリアワインを理解する第一歩です。
香り
さまざまなベリー系果実が混在した香りに、土や鉄、シソ、スパイスといった要素が加わり、全体として複雑な印象です。さらに、薬品のような独特の香りが感じられることも。イタリアらしい甘さ(凝縮感)を連想させる香り、樽由来のニュアンスが強いものもあります。
味わい
果実味が豊かで酸がしっかりしており、乾いた渋味を感じます。とはいえ、全体の印象としては穏やかなイメージ。余韻に薬品的なニュアンスが残ることもあります。
まとめ
「イタリアらしさ」を纏ったベリー系果実の複雑な香りと柔らかくもしっかりとした酸が個性を際立たせています。
サンジョヴェーゼに限らず「イタリアらしさ」というものがあるように思います。習慣的にワインを熟成させる傾向(バローロ等の熟成規定や伝統的な大樽使用など)があることも影響しているのでしょう。「土っぽい」「埃っぽい」という言葉が私としてはしっくりくる感じです。
ネッビオーロ
淡い外観と強い収斂性(渋み)が最大の特徴。南アルプスの麓、冷涼な土地で栽培されることもあり、イタリアワインの中で最も「鋭角」なスタイルとなります。
外観
基本的に「淡い系」に分類されます。バローロやバルバレスコに数年間の熟成義務があることからも、市場に出る頃には落ち着きはじめているため、少しくすんだ印象、エッジに赤みが見られることが多いです。
香り
ドライフルーツやキノコ、スパイス、血液、紅茶、なめし皮といった個性的な香りが複雑に絡み合う一方で、フレッシュな果実香はあまり感じられません。
味わい
なんといっても強烈な渋みが特徴的。ソムリエ試験において、ここまで収斂性を感じさせるブドウ品種はネッビオーロだけと言ってもいいでしょう。バローロやバルバレスコの熟成規定は、この渋みを和らげるためのもの。熟成後も渋みは残り、酸も強く、非常にシャープな印象です。
まとめ
外観は淡く、香りはフレッシュな果実香以上に複雑さが勝り、口に含むと強い渋みを感じます。ソムリエ試験的には外観で「淡い系」と判断した場合、ピノ・ノワールを想定することがセオリーですが、違和感(独特の香り、渋み)を感じた時にのみ「あれ、ネッビオーロかな?」と思い至る流れで十分です。
テンプラニーリョ
スペインを代表する黒ブドウ品種。近年はスタイルが多様化していますが「リオハ」産が基本となる為、依然としてアメリカンオークの個性が印象に残ります。そして、上記のイタリアらしさに対して「スペインらしさ」というものがあるように思います。
ただ、テンプラニーリョは出題頻度的に無視してテイスティング対策を進めてもかまいません。
外観
紫から黒の色調で「濃い系」に分類されます。ただ、その濃さの中にもどこかに赤みを帯びた雰囲気を持つことが多く、ソムリエ試験合格後、ゆっくり時間をかけてこの微細な色調の違いを感じられるようになることを目指してください。
香り
熟したプラムやブルーベリーの香りが主体。樽のニュアンスが前面に出ていることが多く、特にアメリカンオーク由来のヴァニラ、ココナッツミルク、ロースト香が顕著です。
味わい
凝縮した赤から黒いベリーの風味が樽熟成の影響で馴染み溶け込み、落ち着いた印象に。酸はしっかりしているものの、口当たりは丸く、しっとり感じられます。
まとめ
イタリアワインに感じる“乾いた埃っぽさ”に対し、スペインワインからは“湿った粘土っぽさ”を感じることが多いように思います。
テンプラニーリョは、アメリカンオークのニュアンスを感じ取れなければ品種特定がとても難しくなります。ただ、その時は他の受験者も同じように悩み苦しみますので、ひとまず後回しにし、最終的にはブドウ品種の特定をあきらめることも視野に入れます。
ガメイとマスカット・ベーリーA
甲州とミュスカデのように、この2つの黒ブドウ品種もよく似た性格を持っています。
ガメイは、ピノ・ノワールに近い印象を受けますが、よりシンプルでやや甘みがあり、柔らかさ、大らかさを感じさせます。
一方、マスカット・ベーリーAはより軽めでさらに甘いニュアンスが際立ちます。
外観
どちらも基本的に「淡い系」に分類されます。濃く見えることもありますが、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーのような、ひと目で「濃い系」と断定できるタイプではありません。一方で、ピノ・ノワールより濃いこともあり、意外にも(若いうちに飲まれることが多いことからも)紫が強め。共通して、輝きはやや控えめです。
香り
ガメイは、赤系果実とスミレの香りが主体。シソやイチゴキャンディのようなニュアンスも。マセラシオン・カルボニック由来のバナナ香を感じる可能性もあります。
マスカット・ベーリーAは、特有の甘い香りが印象的で、イチゴのような赤い果実に加え、イチゴキャンディや綿菓子、蒸した芋等の風味が重なります。ガメイよりも甘さが際立ち、よりしっとりとした印象。
どちらのブドウの香りもシンプルで、ピノ・ノワールのようなエレガントさや複雑さはなく、単調です。
味わい
いずれも赤系果実を主体とした、素直で親しみやすい味わい。ピノ・ノワールに比べて渋みは控えめで、香りと同様にシンプル、余韻も短めです。
マスカット・ベーリーAは、より軽めで香り同様に甘さを感じさせる果実味があり、丸みのある優しい味わいが特徴です。
まとめ
どちらのブドウも、香り、味わい共に「果実味がパッと広がって、スッと消える」イメージです。まずはこの“単調さ”を特徴として捉えましょう。
そのうえで余裕があれば、ガメイとマスカット・ベーリーAの違いを意識してみてください。マスカット・ベーリーAの方が酸は穏やかで、全体的に甘く、ややぼんやりとした印象です。
生産国
ガメイはフランス・ブルゴーニュ地方のボージョレ地区を、マスカット・ベーリーAは日本を代表する黒ブドウとして知られています。
三回にわたって主要ブドウ品種の特徴についてお伝えしました。
違うブドウ品種から造られた同じ色のワインを同時にテイスティングし比較することで、ブドウそれぞれの個性、特徴が見えてくるようになります。あせらずこれらの主要品種のみに絞ってテイスティングを繰り返し、その印象を「言葉にすること」を続けてください。
▼料理人のためのソムリエ試験対策 他の回はコチラから。
Vol.1 概要編
Vol.2 一次試験対策前にすべきこと
Vol.3 一次試験対策の準備と春先までの勉強法
Vol.4 一次試験対策、教本と過去問を利用した勉強法
Vol.5 二次試験対策の準備
Vol.6 二次試験対策として意識すべきワインについて
Vol.7 テイスティングして書き留める
Vol.8 ワインの酸とアルコール
Vol.9 主要白ブドウ品種の特徴
Vol.10 主要黒ブドウ品種の特徴 その1
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