和インのマリアージュ

料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.10 主要黒ブドウ品種の特徴 その1

ソムリエの松岡正浩さんから学ぶ「料理人のためのソムリエ試験対策」第10回目は、二次試験によく出題される黒ブドウ品種について。前回の白ブドウ品種と同じく、「外観」「香り」「味わい」「生産国による違い」など、押さえておきたい特徴、見分けるコツについてお伺いしました。

文:松岡正浩 

目次

松岡正浩(「合同会社 まじめ2」代表 / 大阪・北新地『空心 伽藍堂』シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『空心 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。

主要黒ブドウ品種の中でも特にソムリエ試験的に最も重要な「カベルネ・ソーヴィニヨン」「シラー/シラーズ」「ピノ・ノワール」についてお伝えいたします。
時間のない方、余裕のない方は、赤ワインはこの三品種のみに絞ってテイスティング対策を行うことも作戦です。この三品種をしっかり理解すれば十分に合格ラインに到達します。

カベルネ・ソーヴィニヨン

二次試験に出題される黒ブドウ品種の中で、最も濃く深い色調。シャルドネと同様に、世界中で栽培されており、人気の高いブドウ品種の一つです。晩熟で、どちらかと言えば温暖な気候を好みます。

外観

「濃い系」黒ブドウの代表格で、紫から黒のニュアンスが最も強い品種です。粘性もしっかりしており、グラスに「ワインの涙」※が明確に残ります。

※「ワインの涙」:ワインを注ぎ、グラスを回したり傾けたりすると、そのグラスの内側にワインが液滴として残ります。この現象を「ワインの涙」または「ワインの脚」と呼びます。

香り

カシスやブルーベリー、ブラックベリーなどの黒系果実の香りに加え、緑のニュアンスが顕著で、ハーブやピーマンの香りが感じられます。さらに、コーヒー、インク、ナツメグ、鉛筆の芯、腐葉土などさまざまな香りが複雑に絡み合います。
フランス産は、黒果実が前面に出過ぎることなく、上記の香りがバランスよく共存します。
一方、新世界産(アメリカ、オーストラリア、チリ)は、凝縮した果実香と高いアルコールの影響により、緑っぽさや複雑さがマスクされ、黒果実のジャムやコンポートのようなしっかりとした果実香が主体となります。また、樽の影響を強く受け、特にアメリカンオークを使用しているものは、ヴァニラやチョコレート、ゴムのような香りが加わり、より力強さを感じさせます。

味わい

香りと同様に味わいも果実味・酸・渋みなど多くの要素がしっかりと力強く主張し、かつ、その主張がバランス良く感じられるため、落ち着いた印象をもたらします。そのため、全体的に丸ではなく「八角形」のような角ばったイメージです。

生産国

フランス産は杉や腐葉土のニュアンスから森の中にいる時のような「緑」の風味が心地良く感じられます。
一方で新世界産は、より熟した黒果実と樽由来のヴァニラやチョコレートの香りが顕著で、その分、グリーン感が控えめになります。これまで、アメリカ産、オーストラリア産、チリ産のものが出題されてきましたが、これらを明確に判別することは非常に困難な為、生産国に関してはたまたま当たったらラッキーくらいの気持ちで十分です。ただ、「ユーカリ」の香りを感じた場合は、オーストラリア産の可能性が高いと頭の片隅においておきましょう。

※カベルネ・ソーヴィニヨンは、他のブドウとブレンドされることが多く、また、フランスにカベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインがほとんど存在しないため、テイスティングする場合も100%にこだわる必要はありません。ボルドー左岸(カベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドーブレンド)のワインをフランスのカベルネ・ソーヴィニヨンとしてテイスティングすることをお勧めします。
ちなみに、二次試験の解答も「主なブドウ品種」を求められます。

まとめ

「濃い系」を代表する黒ブドウ品種であり、骨格のあるしっかりとした赤ワインになります。各要素がそれぞれはっきりと主張しながらも、トータルとしてバランス良く感じられ、それらが複雑味に通じます。


シラー/シラーズ

シラー(フランス)/シラーズ(オーストラリア)も非常に濃い色調です。カベルネ・ソーヴィニヨンと比較すると、わずかに赤系果実が加わり、若干明るく華やかな印象です。また、この品種特有の酸が特徴的で、マリネしたオリーブの酸味に例えられます。

外観

カベルネ・ソーヴィニヨンと同様に「濃い系」品種に分類され、粘性もしっかりと感じられます。

香り

一般的にシラーは「黒コショウのスパイシーな香り」が特徴だと言われます。加えて、熟した黒果実に動物的なニュアンスを感じることもあります。ただ、私はマリネしたオリーブのちょっと緑っぽく、酸味を思わせる香りが最もわかりやすいと思っています。
また、オーストラリア産のシラーズは、メントールやユーカリの爽やかな青さを感じることが多く、識別のポイントとなります。

味わい

黒果実の風味に圧倒的にわかりやすい酸、渋みがしっかりと主張します。それでも、カベルネ・ソーヴィニヨンほど多種多様な要素が絡み合うわけではなく、より鋭角に感じられます。そのため、カベルネが「八角形」なら、シラーは尖った「三角形」のイメージでとらえられると正解です。概ね樽のニュアンスもしっかりと感じます。

生産国

シラー(フランス)とシラーズ(オーストラリア)の違いは他のブドウと同様に強さ、凝縮感に現れます。フランス産は酸の際立った鋭角な三角形のイメージそのもので、対するオーストラリアのシラーズはアルコールのボリュームが感じられ、果実味もより凝縮されてジャムのような印象に、その分、酸が控えめになるため、その三角形もやや丸みを帯びます。
また、「メントール」「ユーカリ」を感じたら、シラーズ(オーストラリア)と判断することも一つの考え方です。

まとめ

「濃い系」を代表する黒ブドウ品種です。カベルネ・ソーヴィニヨンとの違いを意識してテイスティングしましょう。なんと言っても「酸」の違いが明確です。
八角形のカベルネ・ソーヴィニヨンと三角形のシラーと私は認識しておりますが、新世界産になるとこの八角形、三角形ともに強さにより丸みを帯びるため、識別が難しくなります。ですから、新世界産と想定した場合、この二品種を取り違えてテイスティングコメントを選択したとしてもそれほど問題はないと言えます。


ピノ・ノワール

二次試験に出題される黒ブドウ品種の中で最も淡い外観です。

外観

明るく輝きのある「赤」から紫色の外観。上記で紹介した二つの黒ブドウが「濃い系」ならピノ・ノワールは「淡い系」の代表格。色素量が少ないため、グラスの向こうが透けて見えることが特徴の一つです。

香り

フレッシュな「赤い」果実に加え、スミレやバラの華やかな香りが感じられます。スッキリ爽やかな雰囲気があり、特にフランス産はミネラルによる清涼感を感じることが多いと言えます。アメリカ産は、他の品種と同様に熟した果実香や樽香が強く現れることもあります。

味わい

香りの印象に引き続き赤い果実が主体で、綺麗な酸と長い余韻が特徴です。一言で表現するなら、とてもエレガント。渋味は控えめながら、ワインの骨格を支えています。
新世界産(アメリカ)は、香りと同様に果実の凝縮味が強調されることもあり、その分酸が穏やかになるのですが、近年の気候変動の影響や冷涼ワインへの回帰の流れから差異は小さくなりつつあります。

生産国

フランス(ブルゴーニュ)、アメリカ(カリフォルニア、オレゴン)、そして近年、日本人醸造家が多く活躍しているニュージーランド、素晴らしいワインを造り始めた南アフリカがソムリエ試験的に主要産地となります。ニュージーランド産、南アフリカ産は新世界の中ではフランス寄りの印象ですが、強さを感じるものもあります。

まとめ

淡い外観、赤果実やバラ、スミレの明るく華やかな香り、そして細く長い余韻が特徴であり、全体としてのエレガントさが魅力です。
ソムリエ試験的には、「淡い系」と判断した場合、ピノ・ノワールを想定してテイスティングを進めましょう。そして、そのまま違和感を感じなければ、他のブドウ品種を考える必要はありません。

次回も引き続き、主要黒ブドウ品種の特徴についてお伝えいたします。

▼料理人のためのソムリエ試験対策 他の回はコチラから

Vol.1 概要編
Vol.2 一次試験対策前にすべきこと
Vol.3 一次試験対策の準備と春先までの勉強法
Vol.4 一次試験対策、教本と過去問を利用した勉強法
Vol.5 二次試験対策の準備
Vol.6 二次試験対策として意識すべきワインについて
Vol.7 テイスティングして書き留める
Vol.8 ワインの酸とアルコール
Vol.9 主要白ブドウ品種の特徴
Vol.11 主要黒ブドウ品種の特徴 その2

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