和インのマリアージュ

料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.3 一次試験対策の準備と春先までの勉強法

なるべく最短で、今後のワイン人生を豊かにする「料理人のためのソムリエ試験対策」をソムリエの松岡正浩さんから学ぶ企画3回目。今回は、試験対策をスタートしてからソムリエ教本が発行される3月までに読んでおくと役立つ本やWEBサイト、初めに勉強すべきワイン生産国についてお教えいただきます。

文:松岡正浩 / 撮影: 岡森大輔

目次

松岡正浩(「合同会社 まじめ2」代表 / 大阪・北新地「空芯 伽藍堂」シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『有 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。


正月明けから試験対策を開始し、習慣化する

ソムリエ試験対策シリーズ、第三回目となる今回は、一次試験対策をスタートするための準備と春先までの試験勉強の進め方についてお伝えします。

前回、正月明けから一次試験対策、つまり本格的な試験勉強を始め、それを習慣化することが合格のための絶対条件であると強調しました。
繰り返しますが、試験対策に限らず全てにおいて「スタート」がとても重要です。ここでのスタートとは、お正月から本格的に試験対策を開始し、それを毎日継続することと、日々の生活の中で決めたルーティン通りにテンポ良く試験勉強を始めること両方を指します。

ということで、まず勉強を始めることです。そして、勉強を始めた後は、最初は少しの時間でもよいので、特別な事情がない限り毎日続けるよう努力しましょう。この「毎日続ける」ことが何よりも難しいことは皆さんも経験済みだと思います。それでも、ここを乗り越え、勉強が習慣化された時に合格への道が一気に開けるのです。

その意味でも、一次試験対策の前半戦は非常に重要な時期と言えます。


一次試験対策は「ソムリエ教本」を中心にした学習が必須

一次試験はソムリエ呼称、ワインエキスパート呼称共通で、「日本ソムリエ協会教本」から出題されます。この教本は毎年3月頃に発行され、最新の情報に更新される為、受験を考えている場合は、最新版を手に入れる必要があります。

この教本は非常に充実した内容で、ワインが好きな方にとってはとても楽しい読み物であり、読み込めば一次試験は難なく突破できます。ただ、とにかく分厚い。800ページ以上あり、ワイン初心者にとって、いきなりこのどっしり重い本を読み始めるのは苦痛以外のなにものでもないであろうと思うわけです。

試験対策として、必要に応じてある程度はこの教本を読み進め、重要な箇所に線を引いたり、ノートにまとめたりする必要があります。しかし、膨大な情報が詰まった教本の中から「どこを覚えるべきか」を見極めることは、多くの方にとって悩みの種となるはずです。

ワインとワインクーラー 


ソムリエ試験対策向けのおすすめの本

事前に、ある程度ワインの基礎知識を身につけておくことで、試験対策が順調に進み、教本の理解も深まります。そこで、試験対策に入る前にぜひ読んでおきたいおすすめの本をご紹介いたします。

最初に紹介するのは、日本ソムリエ協会副会長である石田 博さんの著作、2冊です。

「ワインの新スタンダード」(世界文化社)
ワインの基本知識や近年のワインの動向について、初心者にも非常にわかりやすく書かれています。また、トップソムリエとして長年活躍されている石田さんの経験談やケーススタディにもふれられており、「なるほど」と思わせる内容が豊富です。これからワインを学び始める方にとって、最初に手に取るには最適な一冊と言えます。

「10種のぶどうでわかるワイン」(日本経済新聞出版)
この本はテイスティングに特化した内容で、ソムリエ協会の技術部門を担当する石田さんが、ブドウ品種ごとの特徴を丁寧に解説しています。二次試験対策の際に詳しくお伝えしますが、ソムリエ協会のテイスティング基準に直結する考え方が述べられており、例えば「ブルーベリー」と「カシス」の違いをどのようにとらえるべきかなど、重要なポイントが細かく説明されています。
最初は少し難しく感じられるかもしれませんが、テイスティング対策と並行して繰り返し読むことで理解が深まる一冊です。ソムリエ試験を目指す方にとって、必須の書籍と言えます。

次に、シャンパーニュとブルゴーニュ、そしてタダ酒を愛するワイン・ライターとして知られ、ワイン専門誌で「軽薄短小」と称されるコラムを連載している葉山考太郎さんの著書です。

「これだけは知っておきたい 必要最小限のワイン入門」(note)
「軽薄短小」という言葉の通り、ユーモアを交えた軽妙な語り口でワインを解説されており、スルスルと楽しく読み進めることができます。ワインの知識を気軽に身につけたい方や、ワインに対する苦手意識を克服したい方におすすめの一冊で、試験対策に入る前に楽しみながら読んでいただきたい一冊です。

また、僭越ながら拙著の初心者向けのコラムをご紹介いたします。

「初心者のためのフランスワイン講座」
フランスで発行されていた日本人向け情報誌に連載していたコラムで、ワインの基本とフランスワインについて執筆しました。パリが舞台になっていますが、このコラムをお読みいただくだけで、ワインの基礎知識とフランスワインの基本が理解できる内容となっています。こちらも試験勉強を始める前にお目通しいただくにはちょうどよいと思われます。


教本を手に入れるまでの勉強法

さて、受験を決意したものの、何から始めるとよいのかわからないものです。また、教本が手に入るまではどのように勉強を進めると良いのでしょうか。

今は便利な時代で、インターネットで「ソムリエ試験対策」と検索するとさまざまな参考サイト、動画がでてきます。これらを活用し、基礎知識を少しずつ取り入れていきましょう。

ただ、インターネット上の情報なので全てが正しい内容なのか、また、教本は毎年更新されますから、その情報が最新のものであるかどうかということには気をつける必要があります。それでも、手軽でお金もかかりませんから、試験対策を始めるきっかけとしても、いろいろと検索して読んでみる、見てみることをおすすめします。

参考書と共に勉強することも一つの方法です。私が受験した時代はインターネットがほとんど普及しておらず、参考書メインの試験対策が主流でした。ですから、かつては多くの参考書が出版されていましたが、いろいろと状況が変化してしまい、現在はほぼ一択となりました。

「受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座 ワイン地図帳付き」(リトル・モア)
良書なのですが、その年のソムリエ教本を元に改訂されるので3月以降に発売されます。

これらのことを加味すると、ソムリエ教本を手に入れるまでは、ネット情報を利用して試験勉強を行う方がよいと思います。

私は2011年に「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」というソムリエ試験対策支援サイトを開講し、2022年末まで管理人をしておりました。現在は運営を後輩ソムリエに譲り、私は名誉管理人としてアドバイザー的な立場に収まっております。

ウェブサイトの「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」 

この「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」(以下「こーざ」)は私が始めたこともあり、毎年、お正月頃に第一回目が公開されます。そして、7月中旬までに一次試験の該当範囲を全て網羅するように更新されます。
3月のソムリエ教本発行以降は、その変更箇所を反映した内容になり、すでに公開されている1月から3月分も教本発行後に加筆修正されます。
また、「こーざ」は「フランス」の項目から始まるのですが、フランスはワイン法的に変更されるところが圧倒的に少ないということもあり、ソムリエ教本を手に入れる前の教材として適していると考えております。

ちなみに現在は2024年度講座が開講されており、時期的に二次試験が終わったタイミングであるため、その受験報告や三次試験対策についての記事が見られますが、第一回から読み返すことができます。よろしければご一読ください。


効果的な学習サイクルの構築と習慣化

「こーざ」は「二日に一度」のペースで更新されます。この更新頻度は、学習のリズムを整えるペースメーカーとして、特に独学者がほとんどであろう料理人が、自分の進捗状況と照らし合わせながら効率的に試験対策を進めることができるように構成されています。このペースで勉強を進めないと「間に合いませんよ」という意味でとらえていただいてもかまいません。
誰しも一度や二度では覚えきれないのですから、何度も繰り返し学習することが必要です。そう考えると、毎日勉強することが非常に重要になってくるわけです。

ですから、最初は無理に暗記しようと肩ひじを張らず、どんどん読み進めてください。そして、3月頃までできる限り毎日続けてください。その後、教本を手にし、教本中心の学習に切り替えていくわけですが、その時点ではまだ暗記がそれほど進んでいるわけではないでしょう。それでも、ワインについて全く知らなかった頃と比べると、確実に新しい世界が見えてきているはずです。

次回はより具体的にどのように勉強すると良いのか、過去問の重要性、試験対策後半からラストスパートについてお伝えいたします。

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