和インのマリアージュ

和食×ワイン、マリアージュのコツ~酸味の話から始めます~

「和食にワイン」という方が増え、和食店従事者にもある程度の知識が求められるようになりました。とは言え、普段提供している料理とワインが「マリアージュしている」と自信を持って言える方はどれほどいらっしゃるでしょう。日本料理店でペアリングコースを提案してきた松岡正浩さんは「マリアージュとは“料理とワインが相乗効果で高め合っている”状態のこと。“味の邪魔をしない”“洗い流す”ということではもったいない」と話します。このコーナーでは、松岡さんの経験をもとに、和食×ワインのマリアージュについて、基本のキから、必ず押さえるべきコツ、一度覚えたらあらゆるシーンで活用できる実践的な内容をお教えいただきます。
第1回目は、和食とアルコールの相性においてポイントとなる「酸味」の話から始めます。

文:松岡正浩 / 料理制作:大阪・心斎橋『日本料理 翠』 / 撮影:Rina

目次

松岡正浩さん(京都・御所東|フランス料理『Droit(ドロワ)』/ギャルソン)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022年2月より、京都・御所東のフランス料理『Droit』ギャルソンに。

和食とワインの相性について、ここ10年で取り巻く環境が大きく変わってまいりました。「ペアリング」という言葉が浸透し、料理に合わせた飲料を提供するという飲食店が増えてきたことも理由の一つでしょう。ということで、こちらは「和食の扉」ですから和食とワインの相性についてお伝えします。

酸味がもたらす効果とは

私は大阪・吹田市の料亭『柏屋』において6年間、日本料理にペアリングコースとしてワイン・日本酒を提供してまいりました。その中で、日本料理とアルコールを合わせる上で最も大切なポイントだと感じたのは「酸味」でした。

和食のベースとなるカツオだしからは明確に酸味を感じるかと思います(この酸は乳酸だそうです)。また、昆布だしにも酸味が隠れています。さらに、主要な調味料として醤油が挙げられますが、この醤油にもしっかりとした酸味があり、これは乳酸菌の働きによってブドウ糖が変化して生まれたものだそうです。

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一般的に、酸味は塩味をまろやかにし、甘みと合わさることでより旨みを増します。また、魚の生臭さを覆い隠し、野菜のアクの風味を和らげるなどの役割を持つとも言われます。さらに、緊張した神経を落ち着かせ気分を爽快にし、嗅覚と味覚を刺激して唾液や胃液の分泌を高め、食欲を増進させるなどの効果も認められています。このように酸味は料理にとって欠かせない要素の一つと言えます。

日本酒には、酸味が少ない?

例えば、お造りには日本酒が最もよく合うと大多数の日本人が認識していると思います。しかし、本当にそうでしょうか?

上記でお伝えしたように、私は料理とお酒の相性を考える上で重要な要素の一つが酸味だと考えております。酸味によって「繋ぐ」「支える」「まとめる」イメージです。ただ、その酸味が日本酒には少ない…。もちろん、山廃(やまはい)や生酛(きもと)など、比較的酸味が主張する日本酒もあるのですが、少数派です。料理に合わせるために必要な要素であると考えられる酸味が日本酒からはあまり感じられないのです。

「大吟醸」や「純米大吟醸」は一般的に日本酒の一番上のクラスとされています。酒造好適米をしっかりと磨いて、香り高く、雑味のないとても綺麗な味わいに仕上げられるお酒です。フルーティーで柔らかな甘みがあり、お酒としてまとまっていることは皆さんもよくご存じだと思います。
ただ、この大吟醸も他の日本酒の例にもれず酸味をあまり感じません。丸くてなめらか、そして甘い。特に各蔵元が力を入れている最上級クラスの大吟醸の味わいは球体、とてもピュアでバランスよくまとまっています。言い換えると、お酒単体で味の構成がすでに完成されているんです。ですから、料理の味わいがそこに入る「隙」がなく、料理と合わせることで大吟醸のバランスが崩れてしまうこともあります。大吟醸はお酒そのものを嗜む方がより良さを感じつつ、美味しくいただくことができると私は思うのです。

一方で、ワインは白・赤問わず分かりやすい酸味があります。世界中の酒類の中でここまで酸に特化したお酒はワインだけと言っても過言ではないかもしれません。また、特に白ワインからは酸味と共に、柑橘の風味が明確に感じられます。和食はレモンや柚子、スダチを搾って食べることも多く、その点を踏まえるとさらにワインとの相性をイメージできるのではないでしょうか。

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“余韻の長さ”も意識するポイント

さらに、料理とお酒の相性において、酸味と並びポイントとなる要素が「余韻」です。日本人は日本酒やビールに「キレ」や「ドライな後味」を求めているようにも思いますが、一つの考え方として、キレてしまうと相乗効果としてのマリアージュには繋がりづらいと思うんです。

私が『柏屋』でペアリングを考えた際に最も苦労した料理が「お造り」でした。ここではっきりと言います。マリアージュという意味では、お造りと日本酒は本当に難しい。

お造り、生の魚介類は想像以上に味わいとしての主張が強く、存在が口の中に長く残ります。それが美味しさなので、その口に残った旨みまでお酒とどう合わせるのかを考える必要があると。
先に述べたように日本酒には酸味が少ない。さらに、味わいとして丸く、料理の受け皿となりづらい。また、“キレ”を謳った日本酒が多いことからもお分かりいただけるように、日本酒はワインに比べて余韻(口の中に風味・旨みがとどまる時間)が短い。お造りの余韻が長いのですから、日本酒の短い余韻ではお造りの旨み、もしくは魚っぽさ、悪く言えば生臭さが口に残ってしまいます。

こうは申しましても、私は日本酒が大好きで、日本料理店やお寿司屋さんに行ったときは基本的には日本酒をいただきます。マリアージュという意味でピッタリと思うことはあまりありませんが、日本酒をお猪口に注ぎ、ちびちびやるというリズムが料理をより美味しくしているように感じるからです。

では、お造りに一般的な日本酒が難しいならどうすれば良いのかということですが、私は酸味が豊かで、とにかく細くてもいいので余韻の長い(キレない)日本酒を探しました。山廃や生酛を選ぶことが多かったと思います。

さて、余韻に関してもワインは日本酒よりも優れています。余韻の長いことが良いワインの条件とされ、醸造の際に大きく意識されています。
さらにお造りに添えられているワサビやショウガ、和辛子はびっくりするくらいワインと相性がいい。特に、ワサビは舐めながら赤ワインが飲めるくらいのベストマッチです。ただ、相性が良いというだけでお造りにワインを合わせるのは、日本人として悩みどころかもしれません。

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さらに、ワインは酸味、余韻以外にも日本酒からは感じることが少ない要素を持っています。例えば、赤ワインの「渋み」。山菜や、筍、鮎などは程よい苦みが特徴です。この苦みに赤ワインの渋みがよく合います。

このように考えると、和食とワインの相性もそれほど難しくないように思えてきませんか? 和食とワインのマリアージュ、合わせ方にはいろいろな考え方がありますが、まずは「同調」させることから始めましょう。

次回からは、実践的に和食とワインのマリアージュについてお伝えしてまいります。

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