ロンドン『HANNAH 花』が懐石から伝える日本食の多様な顔
テムズ川に輪を描く、巨大観覧車ロンドン・アイ。観光客で賑わうたもとの遊歩道から一筋入った静かな通りに、日本料理『HANNAH花』はあります。昨今、本格的な懐石料理が食通の注目を集める中、日本の食文化の多面性を伝えるべく、独自の懐石コースを届ける下山大介シェフ。日本とイギリスの星付き店を経て独立後、自らのスタイルを求めるシェフの姿と考えをお伝えします。
本物志向の中、選び取ったのは“モダン”
ロンドンの象徴、国会議事堂脇にそびえるビッグ・ベン。その向かいに建つ、エドワードディアンバロック様式の巨大な旧市庁舎。ロンドン・アイの乗り場にも面し、建物内には水族館やアトラクションも有するロンドンの代表的な観光名所だ。緩やかにカーブを描く壮麗な外観。しかし、飲食店エリアは近代的で、この1、2年内に改装された白壁のシンプルな店内など、新旧が入り組む混沌とした独特の雰囲気を醸す。日本料理『HANNAH 花』はこの一角にある。
左/国会議事堂脇にそびえる時計台ビッグ・ベン。中上/国会議事堂から『HANNAH』と旧市庁舎がある方へ向かって、テムズ川に架かるウェストミンスター橋。中下/旧市庁舎は、ロンドン出身の建築家ラルフ・ノットによって1911年に建設が着工し、1958年に完成した。かつては、前衛アートで有名なサーチ・ギャラリーが入居していた場所でもある。右/『HANNAH』の入り口。
世界同様、イギリスも物価高や人手不足が続く。それでも、日本料理への熱は冷めやらず、新店オープンの勢いは止まらない。鮨を中心にしたコース料理を意味する「OMAKASE(おまかせ)」という名称は、着実に浸透し脚光を浴びる。そして、徐々に「KAISEKI(懐石)」への理解も広がりつつある。本格的な懐石料理の店がロンドンやパリにも登場し、造詣の深い食通を惹きつけている。風向きは、確実に本物志向へと向かっている。
そんな中、あえて伝統に縛られない“モダン懐石”を選び取り、日々、新しい取組みを続けているのが『HANNAH』オーナーシェフ下山大介さんだ。
下山大介さんと奥様の裕子さん。大介さんは15歳から料理の世界に入り、調理師専門学校、ホテルや旅館、数々の日本料理店で経験を重ねた後、六本木『龍吟』へ。下山さんが勤めていた箱根の旅館で、後に仲居として働いた裕子さんと知り合った。
現地人が違いを実感する、懐石料理人の味
『HANNAH』のコースは八寸に始まり、造り、焼物、強肴(しいざかな)と、懐石料理の要素を取り入れた12品で構成される。その中に通常の懐石コースでは見られない、寿司やラーメンなどの麺類、時には洋食を要所に組み込む。下山さんの経歴ならば、本格的な懐石料理に徹して供することもできたはず。それをなぜ、このようなスタイルにしたのだろうか?
「懐石料理を本当の意味で楽しむには、やはり日本の歴史や文化的背景を知っていることが好ましいと思うのです。教養を持っている中での遊び、と言いますか…。するとどうしても一部の食通に対しての料理になってしまいます。でも私は、そこまで知識のない食べ手にも楽しんでもらいたくて。そのためには、分かりやすさと多少のエンタメ的要素も必要。海外での日本食の代名詞のような料理を組み込み、その中に私なりの解釈・表現を加えて提供しています」。
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