【レシピ付き】水ダコを水無月風に仕立て、沢煮椀の椀種に
2025年の半夏生(はんげしょう)は7月1日。昔から田植えはこの日までに終わらせるのがよいとされていました。八本足の吸盤が地面に吸い付くように、苗がしっかりと根を張ることを祈って、半夏生にタコを食べる習慣が大阪にはあります。そこで、今回の大阪料理会のテーマはタコ。東心斎橋『旬鮮和楽 さな井』の長内敬之さんは、夏らしい沢煮椀を提案。椀種の主役は、夏越(なごし)の祓(はらえ)にちなんだ水無月風です。タコのすり身をベースに、吸盤を小豆に見立てた仕事に注目が集まりました。
※大阪料理会 公式サイトhttps://osakaryourikai.com/
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長内敬之さん(大阪・東心斎橋|『旬鮮和楽 さな井』店主)
1964年、福井県生まれ。京都や大阪の名店などで料理長を務めた師匠の下、新地の割烹『七生(ななお)』(閉店)にて修業。2005年、独立。チャレンジングな発想で魅せる割烹仕事に、確かな技術が息づいている。ユーモラスなトークも持ち味。「大阪料理会」運営委員。
『旬鮮和楽 さな井』長内敬之さん作 水蛸水無月風沢煮仕立椀
近年、明石の真ダコは値が高い上に、大きなものがなかなか出回らないんですよね。水ダコの方が足が太くて立派やし、安定して入手できるので、僕はおせちの柔らか煮にも好んで使っています。
今回は、水ダコでお椀を作ってみようと思って。夏越の祓に「水無月」という和菓子を食べる習慣があるので、水ダコを水無月風に仕立ててみました。ベースはすり身と木綿豆腐。吸盤の赤を小豆に見立てて、所々に加えています。
夏らしい一椀にしたかったので、千切り野菜をたっぷり加えて沢煮仕立てに。といっても、沢煮汁は家庭的なイメージがあるので、料理屋の一品にするため、新生姜豆腐を添えたり、とろみを付けた吸い地に細く溶き卵を流し入れて、華やかな見た目に仕上げています。
左上から、下茹でして浸し地に漬けた千切りのニンジンと絹サヤ、レッドキャベツスプラウト。手前左から、二番だし・淡口醤油・みりんで炊いた干し筍、新ゴボウもニンジン同様に下茹でして地浸け、極細切りの九条ネギ。
プーアール茶でタコのぬめりを取る
以前、「料理理科」で「タコのぬめりはお茶で取れる⁉」という実験をさせていただきました。
タコは塩でもんでぬめりを取るのが一般的ですが、そうすると塩味が付いてしまうでしょう。お茶を使うと、タンニンがぬめり成分と結合し、簡単につるっと取れるんです。その上、もんでいる時に生臭みが出ないんですよ。
煎茶や番茶など数種類のお茶で実験した結果、プーアール茶が一番タコの風味と相性が良かったんです。そこで、今回もプーアール茶でもんで、ぬめりを取る下処理をしました。
水ダコのすり身と吸盤で、水無月風に
ぬめりを取ったタコは山椒オイルをまぶして真空し、58℃で25分、スチコンで蒸しています。火を入れたかったというより、水ダコは意外と塩分が多いので、脱水させながらその塩分を抜こうと考えました。
下蒸ししたタコの吸盤を外し、皮もこそげ取って、水切りした豆腐と合わせ、フードプロセッサーにかけます。少し赤色が欲しかったので、足の細い部分は吸盤と皮を付けたまま使いました。これをさらにすり鉢で当たって、硬さを調整しています。
小豆に見立てて吸盤のぶつ切りを加えると、食感のアクセントにもなりますね。
溶き卵や山椒オイルなどを合わせて生地を作り、流し缶に入れ、スチコンで蒸し上げました。これを三角形に切り出し、水無月風としました。
鮮烈な新生姜豆腐で清涼感を
うだるような暑い日が続いているので、鮮烈な香味で清涼感を演出できたらと思って、新ショウガで葛豆腐を作って添えました。
新ショウガは、あえて下茹でなどせず、高速のフードプロセッサーでペースト状にして、葛と合わせて20分ほど煉っています。その方が、ピリッとスパイシーな風味に仕上がります。提供する際、温めるのも蒸し器でやると、この風味が飛びません。ちょっと刺激が強いかな、と思ったら、吸い地で温めると和らぎますよ。
実は、この吸い地はカツオ昆布だしと野菜だしを合わせたもの。この時期、トウモロコシの芯などがいっぱい余るので、うちではキャベツの外葉やニンジンの皮などと合わせて煮出し、野菜だしをストックしています。
新ショウガの豆腐を煉る時にも、この野菜だしを加えています。新ショウガの持ち味を生かしながら、野菜の甘みが加わることで、味わいにふくよかさが生まれて、いい塩梅になったな、と思います。
プーアール茶を活用したぬめり取りにも関心が集まったが、タコをすり身にして椀種にするという発想が話題をさらった。タコの色や吸盤の形を生かした水無月風の仕立ても大好評。さらに、注目を集めたのが、刺激たっぷりの新生姜豆腐。「水ダコとの相性が抜群。清涼感の演出として心憎い」と畑 耕一郎会長が絶賛した。
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