特集

【レシピ付き】洗い Vol.1 京都『美山荘』

「当たり前のように聞こえると思いますが、洗いは水が重要です」と意味ありげに笑う、京都・花脊(はなせ)の料理旅館『美山荘』四代目・中東久人(なかひがしひさと)さん。選んだ食材は、庭の池に泳がせて身を清らかに肥らせた鯉(コイ)です。
長年の経験から導き出した“美味しくなる洗い”の秘密を、惜しみなく披露。調理技術のみならず、いかにも夏らしい食べ方も併せてお届けします。

文:川島美保 / 撮影:ハリー中西

京都・花脊『美山荘』中東久人さん作 
鯉の洗い 青の薬味 夏仕立て

京都中心部から車を走らせること1時間あまりでアクセスできる、左京区の鄙(ひな)なる山里。この地ならではの食材を生かした滋味豊かな料理を提供する『美山荘』では、鯉は名物的食材として知られている。 

「例えば5月なら葛打ちして揚げた鯉の身を椀種にして、ホワイトアスパラガスのスライスを浮かべた椀物にします。シンプルに塩焼きすることもありますし、寒くなってきたらコク深い甘露煮に。形を変えて、ほぼ通年お出ししている食材ですね」。

そして、6月は「洗い」にするのが定番。
「初夏の始まりに涼しさを届ける向付として、ご好評いただいています」と中東さん。今回は特別に、より夏らしい仕立てを考えたと話す。

骨を断ちながら薄切りに

鯉は品質が安定している滋賀県湖西の朽木(くつき)から。井戸水を引いた敷地内の池に1週間ほど泳がせて特有の泥臭さを抜く。
「身が痩せてきたらエサを与えて“肥え直す”ことで、より洗練された味に」。1尾800ℊ前後の中サイズが中東さんの好みだそうだ。

「鯉の身をよく観察して、骨を垂直に断つように庖丁を入れることが大切。口あたりが違いますし、最近は骨を気にされるお客様が多いですからね」。
三枚に下ろした鯉の身を、少し向こうが透けて見えるぐらい、いわゆる薄造りの3倍ほどの厚みにそぎ切りにしていく。「表面積が多いほど旨みを感じやすいんです。ただし、薄すぎると食べ応えがなく、厚みがあると骨が障りますので」。

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