ニュースな和食店

中国料理のエッセンスで魅せる京都の新星『日本料理 研野(けんや)』

和食の名店・老舗がひしめく京都や大阪は、そこで腕を磨いた和の料理人の独立、オープンの知らせが引きも切りません。そんな新星の報に加えて、全国各地の老舗の新展開や名店のチャレンジなどのニュースをお届けする本コーナー。初回は、2021年3月に京都・岡崎にオープンした話題の新星をご紹介。「若い世代にも日本料理を」という軽やかなもてなしにご注目を。

文:阪口 香 / 撮影:竹中稔彦

他ジャンルの技法も食材も取り入れた、新しい解釈の“日本料理”を

コース序盤。「ジュッ!」と音を響かせたのは、天ぷらではない。店主が料理に熱した油を“かけた”のだ。そして、「カワハギのお造りです」。同時に、油に移した唐辛子や四川山椒の香りが店内に満ちる。意想外な“演出”に、カウンター客の目が輝く。

ここは2021年3月、京都にオープンしたばかりの『日本料理 研野』。4月中旬現在、席は6月末まで埋まっている。

お客を惹き付ける最大のポイントは、冒頭の料理にも見られる中国料理のエッセンス。コース全12品のうち、2/3ほどの料理に組み込まれる。叉焼(チャーシュー)や湯気を上げて供される粽(ちまき)、空心菜のニンニク炒めを添えた焼物に、締めの手打ち中華麺。白木のカウンターに供される皿が、予想のナナメ上をゆく。

その発想は、31歳の若い店主・酒井研野さんのイズムに基づく。「『日本料理は引き算の料理』。それは確かです。ただ、それだけが正解なのかと疑問を抱いて。日本では長らくいろんなジャンルの料理が食べられてきたし、世界の食材が栽培されています。“今、日本にあるもので作る料理”を日本料理と捉えてもいいんじゃないか、と思って」。あえて、店名に「日本料理」を冠した。
さらに、「“足し算”もありではないか、と。例えば、油脂分やスパイスの刺激。調理法も含め、複雑な味わいが創り出せる中国料理の技術を取り入れようと考えました」。そこに至ったのが、料亭『菊乃井』で8年、姉妹店の『無碍山房(むげさんぼう)Salon de Muge』で料理長を2年務め終えたとき。それから、岡崎の中国料理『京、静華(きょう せいか)』で中国料理の古いレシピを学ぶ勉強会へ通い、後に修業に入った。「透明感のある」「身体に優しい」味わいと評される師・宮本静夫さんの、ギリギリまで削ぎ落した素材へのアプローチを学んだ。

IMG_2500酒井研野さんと、女将の愛さん。名店『餃子王』の跡地を改装し、カウンター8席の空間に。研野さんは、ニューヨークの日本料理店、東山のイノベーティブレストラン『LURRA°』でも修業した経験を持つ。

IMG_7658カワハギの造り。ぬた和え、山クラゲの甘酢漬け、カワハギ、ミョウガ、白髪ネギをすべて混ぜていただく。

2451_7676_2叉焼の仕上げは、お客の前で。米麹に漬けた肉は柔らかく、味わいもまろやか。

中華テイストや「ごはん会議」で“ラフなスタイル”を打ち出す

料亭で日本料理を学び、中国料理の技術をも会得した酒井さんが目指すのは、緩急をつけたコース展開。「各料理の存在意義をはっきりさせて組み立て、日本料理に着地させる工夫をしています」。先付は2品。1品目で「季節の訪れをふわっと感じられる優しい料理」を供し、2品目として叉焼を目の前で炙る。「視覚、聴覚、嗅覚にインパクトを与えて、食欲を一気に高める皿です」。花ワサビとフキノトウ味噌を添え、「口内調味で、日本の香りを感じていただけたら」。

続くお造りは3品で展開。前後を王道の旬魚で挟み、間に「中華のテイストを入れ、さまざまな食感で楽しませる」造りとして、冒頭の「カワハギ」を供する。油をかけるという演出はもちろん、下にはぬた和え、山クラゲの甘酢漬けを、上には針ミョウガ、白髪ネギを盛り、「コリコリ、ぐにゅぐにゅ、シャキシャキ」と楽しい食感に。「私が好きな、ぬた和えを印象的に、美味しく食べていただくための料理なんです」。
その後、「インパクトある料理の後のクールダウン」としてのお椀に、「優しく胃を刺激し、第二章の始まりを感じてもらう」お凌ぎの粽…。展開の起伏に、客の心は高揚していく。

締めには、酒井さんが「ごはん会議です」と茶目っ気たっぷりに供する、土鍋ご飯とおかずのセット。さらに手打ち中華麺、デザートへと続く。約12品で14300円という値付けは、今の京都では頃合いであろう。どの客も値ごろ感を感じているようだった。
酒井さんは、オールシーズンこの価格で、と考えている。「秋の松茸、冬のカニは値段が上がるので、使わない方向で。他に、おいしい食材もありますし」。

クラフトビールが充実していたり、クラシックが流れた後、サザンオールスターズも聴かせたり。そんな肩の力が抜けたラフなスタイルがいい。若い世代が日本料理に親しむきっかけとして、京都のこんな料理屋の存在は頼もしい。

2451_7676グジの鱗(ウロコ)焼き。下には、空心菜と豆苗を魚醤、ニンニクで炒めたもの。食感のハーモニーが楽しい。「日本料理にニンニクはタブーですが、日本で作られたもので香りも優しいので」と酒井さん。

IMG_7768酒井さんが「ごはん会議」と命名したおかずのセット。米は、酒井さんの故郷・青森県産の「まっしぐら」。松前漬け、マグロの黄身醤油、大根のビール漬けをエゴマと白菜の甘酢漬けで巻いた漬物に、梅干しは甘酢と四川山椒のオイル漬け、昆布と助子の佃煮。

IMG_7795「初めから最後まで合わせてもらっても」という『京都醸造』や『奈良醸造』のクラフトビール、『もりやま園』のシードルも。

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