上野修三の古典

【レシピ付き】4月だけの旬味、「木積筍でなければできない」4品

「木積(こつみ)の白子(しらこ)に出合ってから、筍はこれ一筋」。上野さんが白子と呼ぶのは、まだ土中から皮の先を出す前の、太陽を浴びていない筍のこと。当代・王子裕允(ひろまさ)さんの祖父の頃に出合い、「あの野趣に魅せられましてネ」。“王子さんの筍”でしかできない料理があると、『天神坂上野』では桜の時季まで筍を使わなかったとか。そんな常連客が心待ちにした名作を今回は再現。『王子春星園(おうじしゅんせいえん)(https://watobi.jp/origin/1951.html)の取材後、朝掘りを朝9時過ぎに届けると、「お~立派なん採れたやんか!」。木積筍と向き合って30余年、上野さんの円熟の仕事をとくとご覧ください!

上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:中本由美子 / 撮影:東谷幸一

アク抜き要らず! 上野流・木積筍の下準備

木積の王子さんの竹やぶを初めて訪ねた朝のことは忘れられまへん。
陽のあるうちに、土にわずかに入ったひび割れを探し、細い竹の目印を立てておくそうで、これがカーバイトランプという昔懐かしいライトに照らされ、ほの暗い竹やぶの中、ぼやーっと浮かび上がるんだす。その下の土をそっとかくと、皮の先端の黄色い芽のようなものが顔を見せる。迷わず一撃で掘り出した筍の立派なこと。皮が白っぽくて、切り口は真っ白。一口齧らせてもらうと、目が覚めるほどのええ香(かざ)。甘みがあって、アクとは無縁の野趣というんかな。「あ〜これぞ白子筍や!」と私ゃ感激したもんだす。

これは一刻も早く調理せんとアカン!と、担ぎ屋にワガママ言うて、朝のうちに土付きのままドンゴロスに包んで毎朝届けてもらいましたな。とはいえ、『天神坂上野』はお昼はやってませんでしたから、夕方の営業までは時間がある。そこで「まだ土中にいる」と筍に錯覚させることにしたんだす。

え? 朝のうちに糠で湯がいて、炊いてしもたらええって? 王子さんの白子筍はほとんどアクがありまへん。糠の香りなんて付けたら台無しだす。あの野趣をそのまま味わっていただきたいから、炊くなら直煮。焼くなら、直焼き。そのために、朝のうちに皮を剥き、根元の切りくずや姫皮を昆布だしで茹でる。この茹で汁を少し取ってクッキングペーパーに含ませて筍を包み、その上からラップで巻いて、空気と光を遮断して冷蔵庫へ。

残りの茹で汁は捨てたらあきまへんでぇ。割鮮用の筍を湯がいたり、カツオ節を加えて筍風味のだしを取ったり…と大活躍や。筍を煮たら、その煮汁も、割鮮の割り醤油に、直焼きのタレにと使い切って、余すところなく味わい尽くすのが私流だす。

【上野流 筍の下準備】
①    土を洗い流し、皮を剥く。皮の先の柔らかい部分(姫皮)を切り離し、取っておく。イボのある根元部分を剥く。
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②    ①の姫皮と切りくずを昆布だしに入れ、姫皮が柔らかくなるまで5~6分、強火で茹でる。アクが出たら小まめに取り除く。
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③    茹で汁を漉し、少し取ってクッキングペーパーに含ませる。

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④    ①の筍を③のクッキングペーパーで包み、さらにラップを巻いて、冷蔵庫に入れる(直焼き用)。
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⑤    ③の茹で汁を熱し、カツオ節を加えて5〜6分おき、だしを取る。
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