料理を“変える”砂糖、約80種。大阪『鴻商店』圧巻のプロデュース力
料理の味付け「さしすせそ」。加えてみりんは、和食に欠かせない調味料です。それぞれ意図を持って選定することが多いなか、案外軽んじられているのが砂糖。1種、多くても2~3種を決まったメーカーから仕入れている人も多いはず。ところが「原料や製法、形状によって、甘さはもちろん、脳が『甘い』と感知し、消えていくタイミングが違います。さらに、素材の風味を生かすことも嫌な部分をマスキングすることもできます」とは大阪・寺田町『鴻(おおとり)商店』三代目の篠田充徳さん。80種もの砂糖を操る篠田さんに、目からウロコな砂糖の話をお聞きしました。
“ベロメーター”で砂糖を作る
1935年創業。大阪の下町風情が残る商店街に『鴻商店』はある。
ジャズが流れる店内に、砂糖、豆類、粉類、乾物などがズラリ。近所の買い物客が出入りするなか、全国の名だたる料理店の店主も通っているという。
「九州の某鮨店はパウダー状の『特上白』を酢飯に使ってくださってますね。すっきりした甘さと後に残らないところがいい、と。関西のある日本料理店では『生砂糖シロップ』を酢の物やデザートに。甘さにカドがなくてスムースなんですわ」。
『鴻商店』三代目の篠田充徳さんは、店内に約80種ある砂糖の特徴を的確に伝えてくれる。幼い頃から砂糖に囲まれ、培われた“ベロメーター”は相当なもの。「機械で成分を調べることはできますが、数値の差以上に舌の方が違いを感じます。甘さの度合いだけじゃなく、口に入れてから脳が『甘い』と感じるスピードや、消えていくタイミング。また、黒砂糖をイメージすると分かりやすいですが、甘み以外にも塩味、酸味、苦味、えぐみなど、いろんな味わいを感じます。それらを把握した上で原材料を選び、製糖会社に製造指示をし、ものによってはブレンドする。すると料理や飲み物の味を格段にアップさせる砂糖ができます」。
左/篠田さんは大学卒業後、1980年代半ば頃から家業に就いた。「これとこれをブレンドしたら、もっとおいしくなるんちゃうかな」とアイデアが湧き、どんどん商品が増えていったという。右/仕上げの大きさ調整やブレンドは少量であれば店で行うことも。製糖工場で作られた砂糖はすべて必ず味をチェックする。
一般的な砂糖の種類と特徴
『鴻商店』で扱う砂糖の話の前に、まずは市場に出回っている種類をおさらいする。
「上白糖」は日本で最もポピュラーな砂糖であり、日常的に使うのは日本のみ。結晶が細かく、しっとりとした質感だ。このしっとり感は流通の過程で固化しないよう、結晶に転化糖をまぶしているため。転化糖は後口に残るが、この感覚に日本人は慣れている、とも言える。
世界で最も多く使われているのが「グラニュー糖」。上白糖より結晶が大きく、上品ですっきりした味わい。素材の味わいを活かすことができるが、上白糖に慣れている人にとっては物足りなさを感じることも。一般的な角砂糖や粉糖に使われる。
さらにすっきりした味わいが「白ざら糖」。カラメルが用いられた茶褐色のものは「中ざら糖」。同じく茶褐色の「三温糖」は、糖蜜を再三再四加熱することから名付けられた砂糖。加熱の中で色が付くため、全体の色を揃えるためにカラメルも加えられる。強い甘さやコクがある。
「黒糖」は、沖縄や鹿児島で作られる、サトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めた砂糖。甘さ以外にもいろんな味わいを感じる。「本州の人にとっては上白糖やグラニュー糖よりも甘く感じることが多いのですが、実は糖度はそれらより低い。他の成分が掛け合わさるので“甘味度”が上がるんですね。逆に黒糖を日常的に口にする沖縄や鹿児島の人が上白糖などを舐めると『めちゃくちゃ甘い!』と感じるようです」と篠田さんは話す。
黒糖のパワーを利用したブレンド商品
篠田さんが開発したブレンド商品のなかに料理名が付いたものがいくつかある。「琉球角煮糖」に「江戸前肉じゃが糖」、「お魚の煮付け糖」。どれも白砂糖に黒糖がブレンドされたものだ。
左から、「琉球角煮糖」300g 480円、「江戸前肉じゃが糖」300g 460円、「お魚の煮付け糖」300g 450円。
「白砂糖は素材を活かし、黒砂糖は素材のクセや臭みを旨みに変えることができます。砂糖の種類や配合を変え、調合しています。詳細は企業秘密やけどね(笑)」。
正直、「江戸前肉じゃが糖」と「お魚の煮付け糖」はそのまま舐めるとほぼ同じような甘さ。ただ「煮詰めると違いが分かります。ポイントは黒砂糖。多くても少なくてもダメ。素材の臭みが旨みに変わるまで働いて、その後はさっと消えて主役を引き立てる。そんなイメージです」と篠田さん。もちろん、それぞれ肉料理や魚料理以外に使ってもいいが、料理にピンポイントで合う砂糖を作れる篠田さんの凄さが見て取れる。「琉球角煮糖」は牛肉料理に使っても血生臭さを旨みに変えられるという。
日本料理店や鮨店でも使われる、素材を活かす砂糖
「舌にベタッと残る甘さが嫌だからみりんを使う、という料理人の方も多いですが、そういう方にこそ使っていただきたいのがこの2つ」と出していただいたのが「特上白」と「松ザラ」だ。
右の「特上白」は200g 529円。450g 686円、1kg 1240円もある。左の「松ザラ」は400g 471円。
「特上白」は、10日前後かけて糖を3回結晶させ、純度高く仕上げたパウダー状の砂糖。「松ザラ」はじっくり、約1カ月かけて結晶させたもの。「どちらも素材の持ち味を生かし、後口すっきりに仕上がります。『松ザラ』は結晶が大きく、ゆっくり溶ける分、味がまるくなりますね」。
味噌漬けや魚のタレ、煮詰めなどなら味噌や醤油のエッジが立つし、あんこを炊く時に使うと小豆の香りがしっかり残る。棒寿司や押し寿司といった寿司飯には保水しつつ、キレのいい甘さを加えることができる。
「実はもうひとつオススメしたいのが、もうすぐ(8月中旬頃)発売になる新商品。その名も『歓喜の閃光-SPARKS OF DELIGHT-』。甘さがパッと弾けて消える砂糖です。フルーツのジャム用に作った砂糖ですが、和食の素材を活かす調理に向いているかもしれません」。
常に「もっとおいしい砂糖を作りたい!」という気持ちで商品開発を行う篠田さん。その躍進は止まることを知らず、砂糖の世界を深く、楽しく、広めていく。
篠田さん自ら描いた、新商品「歓喜の閃光-SPARKS OF DELIGHT-」のデザイン案。花火の閃光のように、フルーツの名前が書かれている。
店内にはさまざまな砂糖があり、見ていて飽きない。左/「まかないコンガラ糖Ⓡ」300g 485円は、各種の砂糖を製糖した際に余ったものをブレンドした、毎回配合が異なる砂糖。「たくさんの種類が入っているので、甘さに波と深みがあります」。「春雪糖」はもともと「神戸 明石 いかなご糖」という名前で売られていた、イカナゴのくぎ煮用の砂糖。300g 457円。右/シロップ類もあり、料理に、お菓子作りに使える。左から「無垢の星濤(むくのせいとう)シロップⓇ」200ml 565円、「生砂糖シロップⓇ」200ml 565円、「秘伝黒糖蜜」200ml 565円。「『秘伝黒糖蜜』は焼肉のタレに加えるとコクが出ますよ。『生砂糖シロップⓇ』はだし巻きに加えてもおいしいです。鯛の子を下煮する際に酒と一緒に炊くと、臭みが抜けて下味が付きます」。
【住所】大阪市生野区林寺1-4-12
【電話番号】06-6716-1219
【営業時間】10:00~18:00
【定休日】日曜、祝日
【Instagram】https://www.instagram.com/ohtori_shouten/
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