昆布はどうなる?

【レシピ付き】だしがらが昆布胡椒になる⁉

見た目は柚子胡椒。少し舐めてみると、ねっとりまとわりつくような舌触り。唐辛子の辛みはあるものの、意外やまろやかな印象で…。後口にほんのり感じるのは海の風味? 実はコレ、昆布胡椒。だしを取った後の昆布を活用したものです。
「大阪料理の要である真昆布の不漁が続いています。貴重な資源を余さず使い切りたいと試行錯誤する中で思い付きました」と話すのは、大阪・天満『懐石料理 雲鶴(うんかく)』の店主・島村雅晴さん。その驚きのだしがら活用術をご紹介します。

文:団田芳子 / 撮影:東谷幸一

だしがらに注目したワケ

『懐石料理 雲鶴』の店主・島村雅晴さんは、2005年の開店以来、毎月、昆布を仕入れに空堀(からほり)商店街の『こんぶ土居』へ通っている。

「2015年でしたか、天然の真昆布が不作だと土居さんから聞きました。その後、毎年、ずっと不漁が続いている状況を聞いてきました」。

天然真昆布は大阪の味の決め手だが、ないなら仕方がない、他の食材を探そうと考える料理人も少なくない。他の産地の昆布に代えるという人もいる中で、島村さんは釈然としないものを感じていたと言う。

「『これまで昆布のうま味に頼りすぎていた』と皆さん口々に仰るのですが…。でも、ほうっておいて昆布は育つものではない。里山再生と同じく、海の中を人の手で育てていかないと復活は難しい」と島村さん。

「函館の産地に再生をして欲しいと願うなら、料理人は真昆布が必要だと伝えなければいけない。そのためには、他の食材で代用するのではなく、真昆布を使い続けることが大事だと思う」と話す島村さん。穏やかな口調ながら、揺るぎない思いが伝わってくる。


そして、「稀少な昆布を使うからにはしっかり使い切りたい」と、だしがらの活用法を探り始めた。「実は昆布の栄養素のほとんどは、だしがらの方に残っているんです」。

kon0007a島村雅晴さんは、大阪の料亭で9年間研鑽を積み、2005年独立。20年、培養肉の研究開発ベンチャー「ダイバーズファーム」を共同創業。22年には、持続可能な食を目指す「RelationFish」代表取締役に就任。元々電子工作やプログラミングにも興味があり、科学者か料理人かで進路を迷ったという島村さん。「食」をテーマにした研究者としての顔を持つ料理人だ。

kon0007b『懐石料理 雲鶴』で使う真昆布は、北海道・白口浜産。吸い地には天然もの、煮炊き物には2年養殖昆布と使い分けている。「やはり天然と養殖ではコクが全然違います」。写真は、2年養殖の真昆布のだしがら。

昆布胡椒という発想

島村さんは、毎日100gから多い時は800gほどの昆布を使う。そのだしがらをどう使うか。
「旨みを出し切った味のないだしがらだからこそできるもの、というのがテーマです。ミキサーで回して昆布醤油というのもいいですが、昆布のうま味はあるに越したことはないでしょう。それに、昆布醤油はたくさん消費できないんですよね」。

だしがら昆布の活用法としては佃煮が最もポピュラーだが、「もっとバリエーションが欲しいと思いまして、醤油を使わないものを」と考えたのが“昆布胡椒”だったという。
「薬味としても使えますが、薄味にすると料理にも応用がきくし、何よりだしがらが多く使えます。田楽味噌風に魚の上に載せて焼いたり、さらに和え衣にもと広げていきました」。

「柚子胡椒と違って香りがないので、何にでも合わせやすく、逆に使いやすいんですよね」と島村さんは手応えを感じているという。
今回は、塩分を控え目にして和え衣に仕立てて披露。

「だしを取った昆布は圧力鍋で少し炊いて柔らかくすると使いやすいです。酢を入れると時間を短縮できますが、合わせる食材を選びますね。今回は赤貝の和え物にするので、酢が入ってもいいですが、キノコの和え物なら入れません」。

塩と塩麹を加えてミキサーにかけて昆布ペーストを作り、青唐辛子と合わせれば昆布胡椒の出来上がりだ。すぐに使えるが、まろやかになるので2~3日寝かせるのが理想。
柚子胡椒のように保存するなら、塩分と唐辛子を多めにするといいと言う。

和え衣として使う場合は「バランスが難しい」とのこと。
今回は、「酢の酸味、唐辛子の辛味、昆布のほのかな風味など要素が多いので、まとめ役として白味噌を加えました」。
その甘みで味の印象はぐっとまろやかに。少しの酢が赤貝との相性を高め、白和えより和え衣としての存在感がある。
「白味噌を赤味噌に代えれば肉に合います。キノコ類に使うなら合わせ味噌がいいですね」。

もしかしたら、だしがらではない昆布を使えばもっと美味しくなるのではないだろうか。
「やってみましたよ」と島村さん。だしを取る前と後の昆布、両方を作って試食したというから念が入っている。

「単体だと確かにだしを取る前の昆布胡椒の方が美味しいんですが、素材の味より昆布の個性が勝ってしまう。だしがらの方がむしろいいんです」。

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