肉料理の人気レシピ
暑さが和らぎ、秋の実りが豊かに揃うこの季節。一方で、鮎や鱧の時季が過ぎ、冬の魚にはまだ早い――そんな魚介の端境期でもあります。今回は、献立の主役やインパクトのある一品として活躍する肉料理をご紹介します。これまで「WA・TO・BI」に掲載された中から、和の技術や工夫が光る、プロならではの品々を厳選しました。
黒毛和牛の煮込み——東京『六雁』
撮影/海老原俊之
一見ビーフシチューを思わせる洋の趣ながら、繊細な和の煮込み料理として構築した一品だ。
用いるのは、国産黒毛和牛のスネ肉。筋を丁寧に取り除いた塊肉を、長ネギ、ショウガと共に5時間かけて蒸し、肉の繊維をやわらかくほぐしていく。
そのまま冷やして脂を除き、肉の旨みを凝縮した黄金色のジュレをソースのベースに。切り分けたブロック状の肉を赤ワインと共に煮込む。さらに、砂糖をカラメル化して加えることで、香ばしさと奥行きを加える。たまり、濃口、薄口の3種の醤油で味を調え、つややかで深みのある優しい味わいに仕立てる。
添えるのは、菊花の甘酢漬けやマッシュポテト、スプラウトなど。付け合わせの妙も光る。
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山椒と松茸が香る煮込みハンバーグ——京都『よこい』
撮影/竹中稔彦
煮込みハンバーグという家庭的な料理を、素材の工夫と構成力によって、和のコースにふさわしい特別な一品に。仕込みで生まれる牛の端肉を有効に使いながらも、妥協は一切ない。
粗挽きの牛挽肉に加えるのは、鬼おろしで粗くすり下ろしたレンコン。シャキシャキとした食感を残しつつ、デンプン質がつなぎの役割を果たす。玉ネギは炒めずに生のまますり下ろし、野菜の水分と甘みで肉の保湿と味の深みを狙う。味付けにはハンバーグに定番のナツメグではなく粉山椒を使用。和の香りが全体を引き締める。
成形したハンバーグは焼き固めてから急冷し、だしで煮込んでやさしく火を通す。肉の旨みが溶け出した煮汁に葛粉でとろみをつけてあん仕立てに。素揚げしたナスの揚げ浸しと重ね、薄切りの松茸を加えてひと煮立ちさせる。仕上げにたっぷりの山ワサビをおろし入れ、香りの余韻を残す。
松茸がもたらすのは贅沢さと季節感。冬には蕪、春には筍と、添える野菜を季節ごとに替えてもいい。なじみ深い料理に、和の技術と発想を重ねた一皿だ。
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牛肉の味噌漬け——京都『割烹 梅津』
撮影/岡森大輔
砂糖もみりんも使わず、糀味噌と酒だけで仕立てるシンプルな味噌漬け。自然な甘みと深い旨みを持つ糀味噌を選ぶことで、余計な調味は不要になる。「酒でのばすだけで、十分なコクが出ます」と話すのは、店主の梅津泰臣さん。味噌はガーゼで挟んで漬けることで後の処理が楽になり、肉を洗う手間も省ける。
使う肉は、ヒウチなど脂が入りすぎていない赤身。漬ける前にコショウをやや多めに振ることで肉が引き締まり、味の輪郭が明確になるという。漬け込みの目安は4日程度。火入れの直前に取り出し、味噌は拭き取らずそのまま焼く。フライパンで中火、レア気味に焼き上げることで、味噌の風味と赤身の旨みが融合する。
今回は焼きナスと合わせて盛り付ける趣向。皮ごと網焼きしたナスを冷水にとって皮をむき、ひと口大に切って皿へ。斜め切りにした牛肉を重ね、オクラを添える。好みで糀味噌を少量あしらっても良い。
冷凍保存すれば、好みの漬け具合を保つことも可能だ。
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合鴨ロース煮——大阪『さか本』
撮影/福本 旭
大阪『㐂川』の創業者・上野修三によるレシピを受け継ぎ、おせち料理としても仕込む定番の一品、合鴨ロース煮。丁寧な下処理と二日がかりの仕込みによって、しっとりとした質感と深い味わいを実現している。
皮目には針打ちを施し、加熱による縮みを防ぐ。ここで活躍するのが、生け花用の剣山だ。手に収まりやすく、皮だけに均一に針を打てるため、仕上がりにムラがない。霜降り後に下煮し、金串で吊るして脂と血を落としながら冷ます。冷めた煮汁に漬け、落としラップをして冷蔵庫で10時間置く。
皮目を香ばしく焼き、再度煮汁で火入れ。引き上げたら、アルミホイルとタオルで包んでゆっくりと冷ます。旨みを含んだ煮汁にはケチャップとカレー粉を隠し味に加えているため、どこか懐かしく、オリエンタルな味わいに。スライスした肉に塗って仕上げれば、香りと照りをまとった一皿となる。
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豚角煮——東京『津やま』
撮影/綿貫淳弥
豚の三枚バラを使った『津やま』流の角煮は、徹底した脂抜きから始まる。三枚バラの脂面だけを焼き、出た脂を捨てながら香ばしく焼き込む。下茹ではたっぷりのおからと共に4時間以上。おからが脂とアクを吸い、臭みのない澄んだ仕上がりに導く。茹で上げた肉は100gずつに切り分け、水と酒に浸けて浮いてきた脂を除き、砂糖と醤油でじっくりと煮含める。一晩寝かせて煮汁ごと再加熱し、とろみが出るまで煮詰めて艶と深いコクを引き出す。
あしらいは「口の中がさっぱりするから」と酢ゴボウを添え、和辛子が味を引き締める。手間を惜しまず、甘辛さと香ばしさが調和した、五感に響く一皿に仕立てている。
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