特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」に行ってきました!
特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」は、東京会場を皮切りに、山形、宮城、長野、愛知を巡回し、現在は京都会場である京都文化博物館にて開催されています。WA・TO・BI編集部は開催初日に足を運び、展示を満喫。また、本展を監修した「ふじのくに地球環境史ミュージアム」館長・佐藤洋一郎氏による記念講演会「京都の食文化」、佐藤氏と京都の料亭「菊乃井」三代目主人・村田吉弘氏との対談「和食のこれから」にも参加しました。その模様をお届けします。
京都文化博物館にて4/26(土)~7/6(日)開催!
現在、開催中の特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」。2013年、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから10周年という記念の年に、東京・国立科学博物館で開幕。各地を巡回し、現在、京都文化博物館にて開催中です。
左/京都文化博物館(写真は同館の別館)。右/会場入り口に設置された巨大パネル。
記念講演会「京都の食文化」と「和食のこれから」
WA・TO・BI編集部は、開催初日の4月26日に伺いました。
まずは、この日限定の記念講演会へ。本展を監修した「ふじのくに地球環境史ミュージアム」館長・佐藤洋一郎氏が登壇。「京都の食文化」を聴講しました。
定員150名が、事前に申し込み数に達する人気ぶり。
佐藤氏は「良質で豊富な地下水、盆地で大きすぎず小さすぎない規模感、濃密な人間関係が京都の食を支えている」とし、2022年に国の登録無形文化財に登録された「京料理」に関して「東京の江戸料理や石川の加賀料理など、土地名を冠した料理屋をその土地で見ることは少ないが、京都は別。『京料理』の看板を掲げている店がダントツに多く、それだけ土地と料理に対する誇りがあるのだと感じられる」と話しました。また、「1」が付く日は小豆ごはんやにしんと昆布の煮付けを食べる、月末にはおからを食べるなど「おきまり料理」の文化があること、和食だけでなく中華料理や洋食、パンやコーヒーなど、京都で愛されている食ジャンルは広く、しかし一方で老舗が閉店に追いやられている危機感についても触れられました。
佐藤氏と京都の料亭「菊乃井」三代目主人・村田吉弘氏との対談では「和食のこれから」について話を展開。
村田氏は、食育活動を通して京都は他エリアに比べてだしの旨みが分かる子どもの割合が高いことを実感。それには日ごろ家庭で「だし」や「うま味」の話に触れているかどうかが関係しているのではないか、また、法事や行事の際に料理屋に行くという慣習が「かいしき」や「懐石」に興味を持つきっかけになっていることなどを話しました。
また、佐藤氏が瀬戸内海で魚介が獲れなくなってきていること、その要因の一つとして急激な雨が降ることが増え、川の養分が十分に取り込まれずに海に流れていることを示唆。
それに対し村田氏は「将来的に人口に対するたんぱく質が足りなくなることは目に見えている」とし、2024年に「OCEAN PLANT」を立ち上げたことを明かし、次のように話しました。
「日本の海岸線はリアス式海岸なんで、アメリカの3倍あり、世界で6番目に長いんです。それを利用し、食べられる海藻を増やす、“Sea vegetable farm”にできたらと思います。そしたら魚も増えるし、環境もよくなる。今、食料自給率は37%まで下がってます。人口は50年後には8000万人になるという計算も出ています。その時に60代以上が45%、働き出す前の年代が30%。つまり25%が働いてまかなわないといけない。ますます食料自給率は下がるでしょう。もっと日本の食材を世界に売っていかなければいけない。海藻、例えばワカメはたんぱく質が10%含まれますが、乾燥させたら40%に引き上がる。今、いろんなところで昆虫食が騒がれてますが、虫と海藻、どっちを食べたいですか? 想像すれば分かるでしょう。そのためには今から動かないといけません。京都人は、100年先を見越してモノを考えられます。孫やひ孫を飢えさせんために、今から動いていかないとあきません。」
聴講した多くの人が頷く講演会となりました。
多彩な資料や標本を用いた展示
本展は第1章~第6章で構成。それぞれ標本や模型、史資料や映像など多彩に用いられており、見ていて飽きません。全体を通して、日本特有の地形や自然環境によって豊かな食材が育まれていること、長い歴史の中で変化し、時に海外の食文化を取り入れながら柔軟にかたちを変えていっていること、人知や科学の進歩が食を改革していることなどを感じ、非常に充実していました。
第1章:「和食」とは?
和食と聞いて、イメージするものは人それぞれ。第1章ではストレートに「和食とは何か」を問いかけます。来場者はそのキーワードを胸に、後に続く展示を巡り、自分なりの答えを探します。
また、世界の食と日本の食では何が違うのかをおおまかに把握するため、主食を始めとする糖質、脂質、たんぱく質の三大栄養素をどのような食物で摂取してきたのかを展示。その土地で育つ植物や獲れる動物性食材を比較し、イメージを膨らませます。
第2章:列島が育む食材
水や魚介類、海藻、野菜、山菜、キノコ……。東西南北に長い日本列島で育まれた植物や動物は、その質や種類も多彩です。
水
まずは水。日本で採取される水は軟水であることが知られていますが、それは急峻な地形と多雨に関係が。さらに、エリアごとに水道水の硬度が違うこと、その差はどれくらいあるのかも分かるような展示です。そして、我々が普段飲んでいるペットボトルやパックに入った水(上写真)は、どのくらいの硬度の違いがあるのか、また、その理由も記されています。
キノコ
「本物⁉」と見紛うようなキノコのレプリカ。世界で数えられるのは2万種であるのに対し、日本に分布するのは3,000種を超えるというから、どれだけ日本がキノコ大国であるのかが分かります。その理由は、キノコは樹木と共生するためだとか。植生が豊かだとキノコの種類も多くなるそうです。
よく食べる種類から毒をもつものまで、いろんなキノコを一挙に紹介しています。
野菜
「野菜」ゾーンで驚くのは、思っている以上に我々が食べている野菜は外国から持ち込まれたものが多いということ。コンニャク芋や大根は弥生時代以前に、春菊は室町~安土桃山時代に、筍は江戸時代に……。時間をかけて、土壌と日本人の舌に合う味わいに変化していったのだということを実感しました。
また、日本は大根の品種が世界で最も多く、800種以上(!)とか。その一部を展示したコーナーは、訪れた多くの人が興味をもって見ていました。
魚介
日本列島や近海には、魚類で約4,700種以上、介類のなかでも軟体動物だけで約8,500種が生息しています。魚介を紹介する展示では、リアルな大きさに作られた標本や模型がズラリ。「サケとサーモンは何が違う?」「意外と知らない、すしネタの正体」といった豆知識も紹介されており、魚介の知識を楽しく学ぶことができます。
魚介類の展示(愛知会場の様子)。
右/地方限定の海藻食も展示。対談「和食のこれから」で「菊乃井」村田吉弘氏が語っていたように、日本列島の周りは多彩な海藻が生育できることが分かる。
発酵
微生物の働きを使って、人間にとって有益な食品に加工すること=発酵。醤油や味噌といった調味料、日本酒、納豆や漬物など、伝統的な食品の多くに用いられています。本展示ではそれぞれの具体的な製造過程を示すと共に、地域性なども一覧で掲出。
だし
歴史的にみると室町時代には文書に登場していたという、だし。グルタミン酸、イノシン酸などのうま味成分を水に抽出したもので、和食に欠かせません。展示では和食における代表的な食材として昆布や節のさまざまな種類をラインアップしています。
第3章:和食の成り立ち
バラエティ豊かな展示で、縄文時代から現代までの和食の歴史を紐解いていきます。
江戸時代の寿司や天ぷら、そばの屋台を再現したフォトスポット(愛知会場の様子)。
まず始めに登場するのが、歌川広重による浮世絵『東都名所高輪廿六夜待遊興之図』から飛び出してきたかのような屋台のセット。なかには、江戸時代の寿司や天ぷら、蕎麦も再現されています。
また、卑弥呼や徳川家康など、歴史上の偉人が食べた料理についても再現。その種類や量の多さにも驚くはずです。
左/卑弥呼の食卓。各地の遺跡で発掘された動物の骨、植物の種子、花粉などを分析し、再現。ゼンマイや筍を混ぜた玄米の炊き込みご飯、マダイの塩焼き、アワビの焼き物など、贅沢な内容。右/長屋王の食卓。邸宅跡から出土した木簡の記述から、日常の食事を再現。アワビやクルマエビ、ナマコなど豪華な食材をシンプルに調理し、食べる人が醤(ひしお)や塩、酢などの調味料を付けて食べるスタイルだったという。
左/織田信長が徳川家康をもてなした本膳料理の再現模型(奥村彪生監修・御食国若狭おばま食文化館蔵)。本膳料理が3日にわたって毎日2回提供されたという。写真は、『続群書類従』に記された献立をもとに家康が到着してすぐに出された「十五日おちつき膳」。右/足利将軍御膳再現模型 京都文化博物館蔵。
注目は室町幕府第12代将軍足利義晴が、大永2(1522)年に祇園祭を見物した際にもてなしを受けた料理の再現(上写真右)。「祇園会御見物御成記」の記録を元に、京都府立大学和食文化学科と大和学園 京都調理師専門学校で和食文化を学ぶ学生たちがタッグを組み、約1年をかけて御膳を完成させました。こちらは、京都会場だけのオリジナル企画です。
江戸時代になると識字層が拡大するため、料理に関する文書も多々出版されました。写真左の手前に置いてあるのは豆腐料理を100種集めた『豆腐百珍(ひゃくちん)』という料理書。ベストセラーになったことをきっかけに、『大根一式料理秘密箱』、鶏と卵を中心とした『万宝(まんぽう)料理秘密箱』など「百珍もの」と呼ばれる本が出版されていきます。右写真は、「料理屋番付」(江戸時代後期 東京家政学院大学附属図書館大江文庫蔵)。この時代には飲食店を格付けするようになるほど、グルメな人が増えたことが分かります。
近代の食を表すのに、マンガ「サザエさん」の展示も登場。「磯野家の食卓」と題し、昭和の食卓の様子がわかる4コマ漫画と、それをもとに再現した料理のレプリカが展示されています。
他、「雑煮文化圏マップ」も。餅の形、吸地の種類、具のラインアップなど、さまざまな地域性が見て取れます。
雑煮文化圏マップと特徴的な雑煮のレプリカを展示。
第4章:和食の真善美
歴史の中で発展してきた道具のほか、技、美、季節に焦点を当てて紹介。「用の美」と言われる日本の美意識を感じられるコーナーです。
第5章:わたしの和食
時代や人によって変わる、「和食とは?」の答え。この章では、「あなたにとっての『和食』アンケート~これって和食?Yes or No~」の回答結果をリアルタイムで掲示しています。地域や世代別に集計されているので、自身の答えと照らし合わせてみるのが面白いです。 アンケートは、誰でもWEBで回答することが可能。ぜひコチラからご回答ください。
第6章:和食のこれから
章のテーマを多角的な視点から捉えた展示です。地域で守り伝えていきたい郷土料理の展示や、食料自給率の低下(2022年の時点で約38%)の解決に向けたテクノロジーの活用や養殖の研究結果、世界に広がる和食のかたちについてなど。「文化を守りつつ、発展させるには?」のヒントが隠されているかもしれません。
展示を回った感想は、まず展示物の充実度がすごいこと! しっかり時間を確保して訪れることをオススメします。また、和食を軸として展開されていますが、同時に日本の歴史や文化、自然を学ぶことにもなります。決して「食」に興味がある人だけが楽しむものではなく、日本のこれからを考えるためにも、ぜひ訪れてみてください。
開催情報
京都会場以降は、2025年7月19日(土)~9月23日(火・祝)に熊本市現代美術館で、2025年10月11日(土)~12月14日(日)に清水マリンビル、フェルケール博物館で開催予定です。 ※巡回会場によって展示内容が一部異なります。
※会期・会場などは変更する可能性があります。
【京都会場詳細】
場所:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)
期間:開催中~7月6日(日)
時間:10:00~18:00(金曜は~19:30)※入場はそれぞれ30分前まで
休館日:月曜
公式サイト:https://washoku2023.exhibit.jp/
<関連イベント>
6/7(土)「復活! SHOGUN御膳 ~足利将軍が食べた料理再現に挑んだ学生たちの記録~」
6/14(土)ミュージアムズフォー連携講座「和食以前~祭礼の供物にみる食文化の変遷~」
6/20(金)ギャラリートーク
※ギャラリートーク以外は事前申し込みが必要なので、コチラよりご予約を。
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