浪速割烹の“動く”料理

【動画レシピ付き】解禁から7月上旬までの旬味「鮎の背越し」

大阪・北新地の浪速割烹『さか本』の名物といえば、鮎。バックヤードに淡水の水槽を設え、最盛期には100尾以上の鮎を泳がせていました。そして、注文が入ってから客の前で締めて、調理する。30年ほど前に始めたこのスタイルは、街中では大変珍しく、爆発的な人気を呼びました。次男が屋号を継いだ今も常連客は鮎の解禁を心待ちにしています。元大将・坂本靖彦さんは、鮎を知り尽くすべく、解禁日からシーズン中は毎週のように奈良へと友釣りに出かけたといいます。釣り仲間や産地で得た知識をもとに磨いた名物・鮎の仕事を、今回は惜しみなくご紹介いただきます。まずは、解禁後の美味・鮎の背越しから。

文:中本由美子 / 撮影:福本 旭

新地に店を開いて数年が経った頃。鮎釣りが趣味の常連さんから「いろんな川で釣って来るから食べ比べてみたら面白いで」と言われて、鮎の魅力に開眼したんです。確かに、育つ川によって鮎の風味が違う。鮎が食べている藻が違うんですね。もっと深く鮎のことを知りたくなって、自分でも釣りに行くようになったのが35歳の時、開店してから5年後のことです。以来、解禁日からシーズン中は毎週のように鮎釣りに行きましたね。いろいろ行った中で、持ち味がよく、近場なので通えることもあって、最後の数年は奈良の天川(てんかわ)の鮎に決めてお出ししていました。

鮎を名物にしようと、バックヤードに水槽も設えたんですよ。淡水の水槽は管理が難しくて…。シーズン前にまずアマゴを生かして、水槽の中の環境を整えるのですが…失敗も数知れず。なんとか鮎を生かしたままお客様に提供できるようになって、解禁後の愉しみとしてお出ししていたのが、背越しです。鮎は年魚といわれる通り、寿命は1年。解禁後の鮎はまだ子どもで、骨が柔らかいんですね。それで7月頭くらいまでは、骨ごと輪切りにして洗いにし、お造りとしてお出しします。これが背越しです。初々しい鮎の風味が楽しめる旬ならではの味覚ですね。

うちの割烹では、注文が入ると、水槽から生きたまま取り出して、お客様の目の前で締めます。ヒレと頭を切り落として内臓を出し、きれいに洗うんですね。それから輪切りにして、氷水で2度洗う。産地の料理店では井戸水が冷たいですから、流水で洗うといいのですが、うちはビルの中。夏場は水道水もあったかいですから、氷水でね。ザルを使う洗いの方法は動画を見ていただけたらと思います。

鮎釣りに行ったら、川辺に蓼(たで)が山ほど生えているので、それを摘んできて蓼ペーストを作り、シーズン中は常備してましたね。うちは、蓼をすり鉢で当たったものに対して、半量の塩を合わせます。蓼の風味を際立たせるため、塩は強めです。そこに、加熱しないで仕込んだ酢味噌を合わせた蓼酢味噌をタレとして添えるのが定番でした。解禁後の鮎の風味は繊細なので、梅酢に濃口醤油を少し加えた梅酢醤油でお勧めするのもいいですよ!

背越しは清涼感が魅力ですから、うちでは、お客様の前で、大きな氷の塊を出刃庖丁でザクッザクッと切ってかき氷を作っていました。庖丁で切ると氷が溶けにくいというメリットもあるんですよ。こんな演出も、割烹ならではだと思います。


「鮎の背越し」の作り方

① 生きている鮎の脳天に串を打ち、締める。
② ウロコ、ぬめりを庖丁でこそげ取り、ヒレをすべて落とす。頭を取り、内臓を出して、腹の中をキレイに洗う。
③ ②を3ミリ幅の輪切りにする。
④ 氷水の入ったボウルに③を入れて、ザルをかぶせ、これを回すようにしてよく洗う。氷水を変えて、もう一度洗う。
⑤ クッキングペーパーでしっかりと水気をふき取る。
⑥ かき氷を作り、器に入れる。大葉、貝割れ菜、針ミョウガ、蓼の葉、穂ジソと共に⑤を盛り付ける。蓼酢味噌、梅酢醤油を添えて供する。

蓼酢味噌

蓼の葉:塩を2:1ですり鉢に合わせ、しっかりとすり潰してから裏漉しする。酢味噌は、白味噌60g、上白糖2g、千鳥酢30㎖で合わせておく。先の蓼ペースト3に対して酢味噌7を合わせる。

梅酢醤油

梅酢に濃口少々を合わせたもの。

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