『衹園さゝ木』6月の献立会議【前編】
京都『衹園さゝ木』の大将・佐々木 浩さんと弟子の調理スタッフでコース内容を考える献立会議。今回は6/2~7/8に提供する夜コースの会議模様をお届けします。弟子のあらゆる提案に、佐々木さんは経験則を踏まえ、さらに『衹園さゝ木』らしいスタイルで一本のコースを構成。前編は先付、前菜、お椀について。お客さんに満足して帰っていただくための気遣いや優しさが光ります。
『衹園さゝ木』の献立会議:2023年、リニューアルを経てコンセプトを「師弟で挑む味づくり」に。調理スタッフと共にアイデアを出し合い、若い感性と佐々木さんの経験値を掛け合わせ、献立を組み立てる。夜のコースは基本的に、先付、前菜、椀、向付2品、鮨2カン、焼き物、進肴(すすめざかな)、鉢物、ご飯物、デザート。昼のコースは夜のメニューを取り入れつつ、料理6品、ご飯、デザートで構成する。献立会議を経た後、すべての料理を試作し、改めて試食会でサービススタッフや姉妹店『衹園 楽味』のスタッフが試食、最終チェック。料理内容は、その都度、修正・改良が加えられる。
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佐々木 浩さん(『衹園 さゝ木』店主)
1961年、奈良県生まれ。前衛的な味と軽妙な話術で場を盛り上げるカウンターの名手。97年に独立し、衹園町北側に『衹園 さゝ木』開店。2006年、現在の地に移転してからはいよいよカリスマ性を発揮。「弟子を育てる店造りを」と再度改装を施し、23年8月、リニューアルオープンを果たす。
調理スタッフは、煮方を務める坂東春樹さん、田中涼平さん、千谷友哉さん、桑原汰知(たいち)さん、ピスケルニック・ナディアさん、下澤海里(かいり)さん。他、4月より一年生が5名入店。
先付
- 佐々木
- えー、6月の献立ですね。暑い日も増えてきて、日中は30℃に迫る日もあるし、梅雨入りもする。お客さんがどんなものを食べたいか、想いを巡らせて献立を立てましょう!
ではまず、先付から。
- 坂東:
- はい、真っ黒なソースをかけた、驚きある一品からスタートするのはどうかと考えました。能登半島で作られるイカワタの魚醤「いしり」で調味しただしジュレに、イカ墨か黒づくり(イカの塩辛にイカ墨を混ぜたもの)を加えて黒いソースに。
青瓜と海藻のトサカノリを敷き、剣先イカとウニ、新ショウガの甘酢漬けの上からたっぷりとかけます。
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佐々木
- ……イカやウニは旬やし、挑戦的でええ発想やと思う。味としてはおいしいのも想像できる。でも、真っ黒なソースはやめた方がいい。
なぜかと言うと、デートで来られた場合、料理を見た瞬間に「歯と歯の間に黒いのが残りそう」って感じて敬遠しはると思うねん。アラカルトの店やったらええで、自ら選びはるんやから。でも、コース料理はアレルギーとかがない限り全員が食べはるもんやから、お客さんがどんな人と、どんな状況で来られているのか想像するのも大事やで。
- 田中:
- 僕も剣先イカで考えました。
炙ったイカとサッとボイルしたグリーンアスパラガスを、鮒ずしの飯(いい)と鮎魚醤のタレで和え、上から大葉オイルをかけて爽やかな一品に。上にキャビアをのせてもいいかと思います。
もしくは、おやっさんに以前、ご試食いただいた海苔麹とウニを和えて召し上がっていただくのもおいしいかと。
- 佐々木:
- イカと海苔は絶対合うから、いい先付やと思うわ。
- 千谷:
- カップ型の器にゴマ豆腐、ジュンサイ、丸くくり抜いたスイカ、ウニを入れ、トマトウォーターとスイカ果汁で作った冷たい吸地をはります。
提供時に霧吹きで水をかけますが、その水をミントやラベンダー、カモミールなどのハーブティーに変更すると、優しく香りが広がって面白いかと思います。
- 佐々木:
- ハーブなぁ…。あ、ちょっと違うけど、お客さんに「お水ちょうだい」って言われた時、ハーブ水を出したら喜ばれるんちゃうかな。「普通の水がええ」て言われたら通常通りで。透明のポットの中にハーブや柑橘のオレンジ、レモンとか入ってたら洒落てるやん。
- ナディア:
- 和風にしてもいいですよね。大葉とかスダチとか。キュウリも使えそうです。
- 佐々木:
- うん、野菜もいいね。キュウリは特にええ香りすると思う!
他、先付の案ある人は?
- 桑原:
- 僕は6月に脂がのってくるイサキの先付を考えました。
焼き霜にし、白ズイキやオクラ、青瓜の浅漬けを添え、デラウェアを加えた煎り酒ジュレで召し上がっていただくさっぱりとした一品です。
- 佐々木:
- イサキもええけどなぁ…。どうしよか。
田中が前に作った海苔麹はおいしかったし、今回はイカとアスパラでいこか。
海苔麹にちょっといしりを入れてもええんちゃう。それにキャビアをのせて。
ちなみに僕が考えてたのは“冷たいいが餅”。いが餅はもち米や米粉の生地であんを包んだものやな。「手でどうぞ」言うてポン、と出したら「わ、冷たいまんじゅうやん」てなる。2口3口で食べれるサイズ感で、割ったらウニかカラスミ、キャビアが出てくる、というのが面白いと思ってな。参考までに。
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