村田吉弘さんの「京のひとり言」

第十回:節分で歳をとる

寒さがこたえる季節ですが、節分と、その前日の京都は活気に満ちています。平安神宮や吉田神社など、あちこちの社寺で節分祭が行われたり(2022年1月19日現在、開催予定)、花街では男装した芸妓さんが仮装したお客さんを連れ、お茶屋を巡る風習があったり。そんな、京都ならではとも言える節分の過ごし方、そして、一般の人にとっても身近な行事について『菊乃井』村田吉弘さんに教えていただきます。


村田吉弘(むらたよしひろ):1951年生まれ。『菊乃井』三代目亭主。現在、店舗は『菊乃井 本店』『露庵』『赤坂 菊乃井』『無碍山房 Salon de Muge』を展開。そのほか、百貨店やオンラインショップでも商品を販売する。2012年、現代の名工として厚生労働大臣表彰、13年、京都府文化賞功労賞受賞。17年、文化庁長官表彰、18年、文化功労者に選定される。

文:西村晶子 / イラスト:得地直美
※「あまから手帖」2018年2月号より転載

冬の大事な行事

2月といえば節分。春が始まるとされる「立春」の前日のことやけど、旧暦でいうと新しい年が始まる節目で、京都の人にとってはとても大事な日です。

京都の旧家では、今も魔除けの柊鰯(ひいらぎいわし)を玄関に置いて、豆まきをしてはるね。八坂さん(八坂神社)や、くろ谷さん(金戒光明寺)をはじめ、街の至る所で豆まきをしていて、厄年の人が裃(かみしも)着けて豆まくのが恒例やね。うちの家でも必ずしていて、毎年、年齢よりひとつ多い数の豆を食べてる。そやけど、69歳にもなったらさすがに食べられへんから(笑)、6と9に1足して16粒。扉を開けて「鬼は外」、閉めて「福は内」と言いながら豆をまき、うちだけかもしれへんけど、すりこぎをもって「ごもっとも、ごもっとも」と言いながらやる。子どもの時は喜んでしてたけど、高校生の頃は嫌々やってたね。

豆まきが終わったら、自分の歳と同じ数の豆を奉書に包んで吉田神社に納めに行くんやけど、これも毎年のこと。その時に、豆の中に必ず五円玉を入れてね。寒い寒い夜中にカミさんと二人で行くのも恒例で、これをしないと歳はとれへん。

京都はこういう行事や祭が多く、それを面倒がる人もいるけど、僕はとても大事なことやと思ってる。最近は家で行事をしない家庭が増えて、行事を知らない人が増えてるでしょう。でも、これには一つひとつに由来や意味があって、家や店を守ることに繋がってる。

正月かて最近はみんなよう出かけてはるけど、うちは三が日はどこにも行ったことがない。八坂さんにおけら参りに行って、おけら火もらって、その火をろうそくに灯し、清水を汲んでその水で僕が雑煮を炊く。元日の朝には、家族全員が集まって大福茶(おおぶくちゃ)飲んで、うちの母親が「お祝いやす」と言うて、家族みんなで「おめでとうございます」と続いてからおせちをいただくのがお決まりです。

梅が咲いたら春

節分が過ぎると梅、梅の名所といえば北野天満宮。僕の祖父(じい)さんが門前にある『粟餅所・澤屋』の粟餅が好きで、店のもんによく買いに行かせてた。僕も天満宮に行ったら必ず買うしね。梅が咲くと冬が終わった気がするし、桃、桜と続くともう春やわね。京都はどこにいても自然が近いから、梅を愛でるなんてことしなくても、散歩してたらどこからともなく梅の香りがして、ああそろそろ春やなあと和む。梅だけでなくて、梅雨時期のくちなし、秋の金木犀(きんもくせい)も香りだけで季節の訪れが分かる。

それに加えて行事や祭でも季節は感じるなあ。お祭や行事は一般の人が参加することが多く、うちの長女なんかしょっちゅう十二単(じゅうにひとえ)着てはる(笑)。五十三代の斎王代(さいおうだい)やったから葵(あおい)祭には必ず参加するし、数年前は曲水の宴やいうてなんやどこかの川のほとりで歌詠んではった。あんたいつの時代生きてんねん、って突っ込みたくなるけどね(笑)。京都は観光の街やからまあ何かにつけて行事は多いね。

こんなに違う東と西

梅が咲いたら新しい一年が始まる気持ちになるけど、その感覚は東京にはないかもしれへんなあ。東京は緑が意外とあって公園も多いけど、季節を感じるということはなかなかない。

東京には月に数回行ってるけど、ほんとすごい街。世界中のものが何でもある。でも、コミュニケーションのとり方が何かヘン。ある時、築地市場で10時過ぎにアワビが山ほど売れ残っていて、「これなんぼ?」って聞いたら、「値切るなら買わなくていいよ」って言われた。関西やったら、何度かやりとりして「ほなまけよか」ってなるでしょ。武家社会の名残やろか、人と人との関係が関西とは違うんやろね。

関西の人は予約とったらどこでも行けると思うし、初めての店でも「旨かった!」と感想を言ったり、「僕、歯悪いし鯛は薄めにね。また来るし顔覚えといてや」って印象を残して帰りはる。なのでこっちもその人が来られたら「鯛、薄めでしたな。覚えてますで」ってなる。ところが、東京の人は風のように来て、風のように帰りはる(笑)。軽んじられるようなことは自分から言わへんし。奥さん同士のランチでも最初はみんなコソコソしゃべってはるなあ。

関西のおばちゃんはどこでも行くし、どこでもようしゃべる。会話や笑いのツボを心得ていて、とにかく東京と関西は人種がまったく違うね。

ずいぶん話はそれてしもたけど、なにはともあれ、ぜひ、今年の節分には豆まいて、いい年を迎えてください。

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